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No.04「ホーリーウォーター」

今回もランダムに選択されたワードによるお題で話を作ってみました。


(お題)

1「予感」「鼓動」

2「魔が差す」「消毒」

3「遠くて近い」「密告」





 カヤには到底信じるコトが出来なかった。



 昨日まで共に過ごし、共に笑った親友のミレイが、今目の前で単なる肉の塊と化していることに。



「バイクに擽かれて、即死だったそうだ……頭を強打して……」



 カヤの傍らには、ミレイの叔母である占い師が寄り添っている。彼女はオカルトな分野に傾倒していて他を寄りつかせない怪しさがあったが、カヤとミレイは彼女を慕っていた。



「叔母さん……ほんとにカヤは……このまま目を覚まさないの? こんなに綺麗な顔をしてるのに? 」



「……そうだよ……残念だけどね」



「……叔母さんには人を生き返らせる魔法は使えないの? 」



「使えないよ……それに私は占い師だ……魔術師じゃない……」



 めちゃくちゃなコトを言っている……そんなコトは自分でも分かってはいたが、カヤは藁をもすがる重いで親友の鼓動を再び動かす方法はないかと。それだけを考えていた。悲しみの涙はまだ流していない。





 霊安室に横たわるミレイと別れ、カヤは自室のベッドで仮眠を取った。そしてその時、何事もなくミレイが目を覚ます夢を見て、カヤは親友の復活を予感した。



 ……この前……叔母さんの部屋で偶然見つけた書物……アレに確か……



 不確かな記憶を元に、カヤは行動に移した。



 そして叔母が不在中に彼女の自宅へと進入し、そのオカルトグッズの中からいかにも魔臭の漂う装丁の分厚い書物を持ち出した。



 それにはこんなコトが記されている。



『死者を蘇らせる法……ここに記されたり……まずは・月桂樹の葉を2枚 ・猫の髭を1本 ・コウモリの粉を2g ・消毒液を2リットル ・アステルパーム30g コンドロイチン3g …………』



 等々……怪しげな材料によるレシピを元に、カヤはとうとう死者復活の禁薬を作り上げてしまった。



「あとはコレをミレイの口の中に流し込めば……」



 ジャムの空き瓶にその液体を詰めたカヤは、全速力で病院へと向かった。



 この行為は正しいコト。ミレイが生き返ってみんながハッピーになれば、過ちにはならない……これを魔が差した行為とは言わせない! 



 自分でそう言い聞かせながら、とうとう彼女はミレイが保管されている霊安室へ忍び込むコトに成功した。



「待っててね……コレでまた一緒になれるよ……また一緒に映画を見たり、学校でおしゃべりしたりできるからね……」



 カヤはゆっくりと禁薬をミレイの口腔内に注ぎ込んだ。



 そして何も起きないまま5分が経過した頃、異変は起こった。



「う……」



「ミレイ! 」



 うめくような掠れ声がミレイの死体から発せられた。間違いない! 親友は今、再び鼓動を蘇らせたのだ! 



 ……そう思っていた……



「ウオオオオォォォォォォッ! 」


「ミレイッ!? 」



 フルートを思わせるようなミレイの声とはほど遠い、冬眠を邪魔された熊のような雄叫びに、カヤは思わず後ずさってしまった。



「グ……ググ……ギギヤァアアッ! 」



 ミレイの体はたちまち工業製品のゴムのような質感となり、そして体中にヒビが走ったと思った次の瞬間……爆発するように無数に砕け、霊安室内に飛び散ってしまう。



「キャアアアアァァァァ! 」



 悲鳴を上げるカヤなど知ったことかとばかりに、飛び散ったミレイの破片はそれぞれ蛇とクラゲの中間のような、おぞましい生物へと変貌し、室内の壁をヌタヌタと粘液を発しながら駆けめぐった。



「ああああっ! 何! なんなの!? 」



 もはや親友の面影など皆無のクリーチャーを目にしたカヤは、この霊安室からの脱出を試みたが、クリーチャーによって両足を絡み取られて身動きが出来なくなってしまった。



「嘘!? やめて!! やめてよミレイ! 」



 クリーチャーはカヤを包み込むように大量にまとわりつき、その数体が彼女の口をこじ開けようとして進入を試みていた。



「んんーッ!! んーッ!! 」



 禁断の行為を働いた自分への罰なのか? 



 必死になってクリーチャーの体内侵入を拒んでいた彼女の精神力にも限界が見えてきた……



 ごめんね……ミレイ……あなたの大事な体をこんなコトにしちゃって……それと、ごめんなさい叔母さん……勝手に持ち出した書物でこんなコトをしてしまって……



 全てを諦めかけた彼女だったが、口をこじ開けられるその直前、この霊安室のドアを勢いよく開く音と空気の流れを感じとり、その方向へと視線を動かす。



「どけどけ! 畜生どもめ! これでも食らえ! 」



 その威勢の良い声は、間違いなく叔母によるもの。彼女はカヤの危機を知って駆けつけてくれたのだ! 



「ウグギュラアアアアッ! 」



 叔母が噴霧機を使って勢いよく散布された聖水によって、クリーチャー達はみるみるうちに溶解していく……カヤは助かったのだ。



「カヤ! 無事かい? 」



「叔母さん! 」



 危機一髪のところを救出されたカヤは、思わず叔母の柔らかな体に抱きつき、泣きじゃくりながら「ごめんなさい! 」と謝罪し続けた。



「いいよ……叱るのはまた今度だ……それよりな……」



 叔母はどこか気まずそうに、ポケットから何かを取り出した。



「それは……!? 」



 叔母の手の上には、先ほどまでカヤを苦しめていたクリーチャーと同型の生物がうごめいている。



「この子がね……あなたがピンチだってコトを私に密告してきてくれたのよ……」



「え……それじゃあつまり……」



「そう……言葉は話せないけどね……コイツだけにはミレイの良心が残ってたんだ……だからお前を助けたんだ……」



「そんな……」



 は虫類のように手のひらの上でうごめく、変わり果てた親友の姿にカヤは言葉を失った。



「そのうち残った良心も消え去って、完全なクリーチャーに逆戻りする……この子も葬らなきゃならない……」



 残酷な言葉だったが、カヤはそれを否定することが出来なかった。そうしなければ、再び人間を襲い始めてしまうだろうから。



「叔母さん……」



「どうした? 」



「私に……私にミレイを弔わせて……」



「……無理をするな。これは私が……」



「お願い! 」



「…………分かった」



 カヤの言葉に迷いのないことを察した叔母は、聖水の入った小瓶を彼女に手渡した。



「ごめんね……わたしのせいで……嫌な思いさせちゃって……これで本当におわかれだね……」



 カヤは一滴、聖水の滴をクリーチャーに垂らし、その肉体を完全に消し去った。



「カヤ……ミレイはね……これで遠い世界に旅立っちゃったけどさ……あの子の魂は、あんたの側でずっと生き続けるだろうよ……」



「そうだね……遠いけど……前より近くなったのかもね……」



 その時初めて、カヤの瞳から悲しみの涙が流れ落ちた。それには自ら親友を弔った聖水のように、寂しい尊さがあった。






THE END

 執筆時間【56分】


 これでお題を消化していると言えるのかが少し不安……(笑)

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