No.03「ハードロックロマンシス」
今回はランダムに選択されたワードによるお題で話を作ってみました。
(お題)
1「浸食」「反乱」
2「戻れない」「意地っ張り」
3「つまはじき」「目の色」
「ミカ……ちゃん? 」
トイレの鏡を見つめながら、涙目になっている同級生「ミカ」と偶然出くわしたサヤカは、彼女の尋常ならざる絶望の表情に思わず声を掛けた。
「あ……サヤカ……ちゃん……? 何でもないって……気にしないで」
サヤカとミカはクラスメイトではあるが、それぞれ毛色が全く違うグループに属していため、教室でほとんど声を交わすことがなかった。
「その……ミカちゃん。よかったら、相談にのるよ……何か言われたんでしょ? さっき先生に呼ばれてたから……」
「…………しっかり見てたのね……」
「ごめん……」
「生徒会長のおせっかいならいらないよ……これは私の問題だから」
ミカは語気を強めてサヤカを突っぱねた。
彼女はいわゆる、学校の「イケてる」グループに属しており。軽音楽部ということもあって生徒達から人気があった。
そして彼女にはもう一つ、他の生徒と変わった特徴を持ち合わせていた為に余計に注目を浴び、特定の教師から度々目を付けられていた。
「……ミカちゃん……また言われたんでしょ? ……その……髪のこと……」
「…………そうだよ……来週までに金髪を真っ黒にしてこい。さもなければ大学の推薦は諦めろ……だってさ……」
ミカの頭髪は、まばゆい金髪だった。それ故に保守的な思考の大人からは苦言を当てつけられることが頻繁にあった。
しかし、ミカは決して校則を破って髪色を変えているワケではない。
彼女の母親はブロンドのイギリス人で、つまりその髪色は遺伝によるものだった。
「おかしいよね……生まれつきのことなのに……そんなことって……」
「お気遣いだけはありがたく受け取っとく……でもいいよ……アンタだって本当のところはワタシをウザがってるんでしょ? 優等生だもんね? 」
「そんなこと……」
「もういい……しょうがないよ……休みの間に染めてくるからさ……それであの時代遅れが黙るってんならさ……しょうがないよ」
サヤカは想像した。
数々の化学物質が混ぜ合わされた髪染め液が、ミカの頭皮に浸食していく様を……そして、あの光り輝くブロンドが人工的な炭のような黒によどんでいく様を……
そうしているうちに、彼女の心の中に沸々と燃えさかる二文字が沸き上がってくる……
「反乱」だ。
翌朝……
数々の生徒達が賑やかに校門をくぐり抜ける中……ある一人の女生徒が威風堂々と歩み続けると、そこにあった人だかりは左右に分かれ、まるでモーゼが海を割ったかのような厳かさすらあった。
生徒達は「え? 」「嘘でしょ? 」「なんで!? 」「会長……だよね? 」「何? 罰ゲーム? 」「スゴい失恋したのかな……」などとざわめきながら、その女生徒に奇異な視線を送り続ける。中には携帯電話のカメラを使って彼女を激写する者もいた。
「おーい! なんだなんだぁ!? 何の騒ぎだこれは!? ……ってえええええっ!? 」
「先生、おはようございます」
「おはようって……おまえ! サ……サヤカなのか? 」
「ええ。何を驚いているんですか? 」
「お前……その頭はなんだ……? 」
騒ぎに駆けつけた教師が驚くのも無理はなかった。なぜなら、亜麻色がかったロングヘアーがトレードマークのサヤカの頭髪がバッサリと断ち切られていて、その上芝刈り機を掛けたかのように、短く切りそろえられていたからだ……
つまりは、丸坊主になっていたのだ。
「サヤカ! 何でだ? 何でそんな髪型に? 」
「なぜって……私、昨日聞いちゃったんですよ」
「聞いた……? 何をだ!? 」
「ミカちゃんですよ。先生、髪色が校則に違反してるからって、彼女に黒く染めるように言ったらしいじゃないですか? だからです」
「意味がわからないぞ……それでなんでお前が頭を丸めなきゃならんのだ!? 」
「私も……ミカちゃんほどではありませんが、髪の色素が生まれつき薄いんです。だから私も定期的に髪を染めなければならなくなります。でも私、アレルギー体質なので、髪染めの際に発疹が出来てしまう恐れがあります……となるともう、髪を無くしてしまうしかないじゃないですか? この誉れ高い学び舎のルールを守るには……これしかないんです」
一切臆することなく、持論を言い切った彼女に対し、教師はしばしの間口をポカンと開けて反論することが出来なかったが、ようやく力を振り絞って掠れた声で彼女に警告する。
「サヤカ……お前は生徒会長で、成績も優秀だ……いい評価を常に与えたい存在だ……それ以上変な意地を張ると、後戻りはできないぞ……? 」
「後戻り……? どうしてですか? 私はこの学校の決まりを守っただけなのですよ? 」
「常識で考えろ! 優秀なんだから! お前は! 」
「常識…………それなら先生……金髪の親を持った子供が金髪で生まれてくることも……常識ですよね……? 」
「……そ……それは……だな……」
その言葉に口を震わせ、再び体を硬直させてしまった教師の横を、何事もなかったかのようにサヤカは通り過ぎた。
「この辺でよろしいでしょうか? 一限目に遅れてしまいますので」
「お前……見た目と違って相当バカだったんだな……」
「そう? 知らなかった? 私、元々バカなんだよ」
学校中を騒がしたサヤカの元に、ミカが息を切らしながら駆けつけていた。
「……もしかして……ワタシを庇ったのかよ……」
「ん~……何のコトかな? 」
「だってよ! 昨日ワタシ……アンタにヒドイコト言ったってのに……何で……! 」
顔を真っ赤にし、涙声でサヤカの真意を確かめるミカ。サヤカはそんな彼女を慈愛の表情で見つめ、こう言った。
「泣かないで……綺麗な青い目が台無しだよ……」
「だって……だってよ……」
「私はね、我慢できなかっただけなの……」
「我慢……って? 」
「ジョン・ジーみたいに宝石みたいにキラキラの金髪を揺らしながら、軽やかな指弾きでベースを響かせるあなたが見られなくなることが……それが耐えられなかっただけなの」
「ジョン・ジーって……アンタ……以外と…………」
ラーメン屋で熊に出くわしたかのような表情を作るミカに向けて、サヤカは満面の笑みでこう言った。
「そう、私も大好きなの! 心躍るハードロックが」
THE END
執筆時間【59分】
ショートショートぐらい短く纏めたい。