No.23-02「パメラ・ウノーラ」
私……パメラ・ウノーラは今から16年前の真冬の凍てつく寒さの中、隣国の田舎町で産声を上げた。
申し分のない健康体として産まれた私だったけど……明らかに両親の面影を受け継がれていない顔立ちだった為、母はその真意を何度も追求されてしまったらしい……この時点で私は二人の愛情の器としての素質を失ってしまっていたのかもしれない。
そして私が5歳になった時……その運命にトドメを刺される出来事があった。
まず、私が住んでいる田舎町はね……凶悪な力を持った魔物が支配をしていたの。
町を襲う怪物を退治する代わりに、大量の供物や生け贄を要求してきたの……無論、断れば大勢の人間を殺戮すると脅しつつね。
その生け贄に……私が選ばれた……
町の代表からランダムに抽選されたとされていたけど……本当のところは、私の両親が自ら立候補したの。
私の父と母は、なぜ我が子をやすやすと魔物に差し出したのか? その理由は簡単で、私という存在が怖かったから。
その当時から、私の体には強大な魔力を帯びていて……力を制御できずに家の壁に穴を空けたり、池の水を一瞬で蒸発させて干上がらせたり……時には両親を吹き飛ばして大けがさせてしまってたり……
そんなことが続いて、私はそのうち「悪魔の子」として忌み嫌われるようになってしまったの。だから魔物に生け贄として捧げて厄介払いをしようとしたみたいね……
でも……私の力は、周囲が思う以上に強力だったみたい。
生け贄として捧げられた私は、いともたやすく魔物を殺してしまったの。
その時の私は、無邪気というか……悪い意味で純粋だったというか……子供ながらにして、魔物を倒した自分の力に酔いしれてしまっていた。
この力で魔物に成り代わって町の奴らを支配してやろう……とか考えちゃって……
でも、それは未遂に終わった……その時に出会った剣士……「ミック・カインド」さんのおかげで、私はようやく人間らしい生活を送られるようになったの。
ミックおじさんは、私を捨てた両親に代わって世話をしてくれた恩人……目が不自由で一人で生活を送ることのできない彼は、よく私を頼ってくれて可愛がってくれた。
愛情や道徳といったモノは、全部おじさんから教えてもらった。おじさんと一緒に暮らして来た10年間……一切魔力を暴発させずに、普通の人間として毎日を送ることができた。
本当にミックおじさんには感謝しつくせない……
でも……ほんの一ヶ月前のことだった……
ほんの一ヶ月前……私は数年ぶりに町に現れた強大な怪物を退治する為に、やむなく魔力を解放させざるを得なかった。
怪物は倒せたけど、私のあまりにも強力な魔力を目の当たりにした町の人々は再び忌避の態度と恐れを抱くようになり、そのことを長年黙っていたミックおじさんに対してまで非難が及ぶようになった……
そしてそんな針のむしろを着て生活を送っている内に……
最悪な……
反吐がでるような事態が起こってしまった……
民衆は私を恐れるあまり……とうとう力づくで私を亡き者にしようと画策したみたい……
ある夜、寝静まっている私の寝室に何者かが侵入してきたのが分かった。そいつら言うまでもなく、お偉方の要請で派遣された殺し屋達だ。
いち早くその気配に気がついたミックおじさんは殺し屋達に立ち向かって応戦するも、返り討ちにあってしまった……もう少し早く私が気がついていれば……
そして血塗れになって倒れたおじさんを目の当たりにした私は、頭と心の中でつなぎ止めておいた「本能」が、理性の壁をブチ壊してしまったことをハッキリと感じ取った。
私は魔力を解放してその場にいた3人の殺し屋を消し飛ばし、次から押し寄せる援軍の群を、何十人も……雑草を踏みつぶすように壊して殺して……そのまま町を飛び出した。
行き先も、頼れる人もいない……ただひたすらに歩き続けた……
そして迷い込んだ森で、怪物とはち合わせて君達と出会ったの。
■ ■ ■ ■ ■
パメラの独白は想像を絶していた。力が強すぎたあまりに、肉親からも捨てられ、唯一の心の支えすらも失った彼女の運命に対し、翔人たちは残酷と呼ぶ以外の言葉を見つけられなかった。
「……私と関わるとみんな不幸になる……だから、私もう行きますね……怪物の攻撃から助けてくれたことは感謝します」
パメラはそうそっけなく呟いてこの場を去ろうと踵を返した。
「ちょっと待てよ! 」
翔人はそんな彼女を大声で引き留める。
「パメラさん! どこか行く宛があるのか? 」
「別に……私はただ、気が済むまで歩き続けるだけ……その時が来れば……もう私はこの世から……」
「待ってよパメラちゃん!! 」
その先の言葉を言わせない! とばかりにミレイが彼女に抱きついた。それはパメラを引き留めると共に、先ほどのスライムの魔の手から救ってくれた彼女に対して、感謝の意を伝えるようにも見えた。
「ダメ! パメラちゃんはこんなところでいなくなっちゃダメなの! その力を必要としている人は必ずいるよ! 」
「そんな……だって……」
小さな体で引き留めるミレイに戸惑うパメラ。どうしていいのか分からないといった表情で黙っていると、翔人がミレイの言葉を繋いだ。
「パメラさん……キミの力を必要としている人間は間違いなく存在しているよ……オレ達がまさにそうなんだ」
「……どうしてなの? 」
翔人は腰に携えたポシェットの中から、一枚の紙切れを取り出してそれをパメラに見せつけた。そこには厳めしい表情を作った初老の男が描かれている。
「この男、本当の名前こそ不明だけど『暴君』と呼ばれている世界的な悪党だ。俺達はコイツを抑え込む為に国家から任命された特殊戦闘員なんだよ」
「暴君……? 」
翔人が差し出した似顔絵を目の当たりにして、顔をしかめるパメラ。突然スケールの大きな話になって、内容を上手く咀嚼できないような面もちだった。そんな彼女に助け船を出すように、レイが話に割り込んでくる。
「コイツは、世界各地で破壊行為に及んでいる『怪物』を魔力で作り出している張本人。凄腕の魔術師で各地を転々としてしながら次々と制圧して力を増やしている……コイツを滅ぼさない限り、この世界に安住の時は来ない。そこで私達が『この世界』に呼び込まれた」
「『この世界』? あなた達は……一体? 」
パメラの言葉に水谷が答える。
「年齢も見た目もバラバラな俺達だが、実は一つの共通点がそれぞれにある。それは、元々こちらの世界……『ライトイニング』ではなく、『地球』と呼ばれる世界の『日本』という国に住んでいたという点じゃ」
「地球? 日本? そういえばさっきも……」
「そう。俺達の顔つきがこの世界の人間とは少し変わっていることにはお前さんも気がついとるだろ? そして君自身もそうだ。すまんが勝手に想像するに……パメラ君自信、おそらくは俺達と同じく『日本』で生まれ、この世界に呼び込まれたんじゃないかと思っとる」
自分が異世界の人間かもしれない……他の人間とは明らかに違う容姿と体質に関わるヒントを得たパメラは少しだけ感情が動かされ、翔人達に心を許しかけた……しかし……
「どっちにせよ……私にはもう、何人も人を殺してる悪党よ……それに、私の魔力は時々制御できずに暴走してしまう……その時は、あなた達も命は無いよ。だから、仲間に入る気はありません」
パメラには罪があり、強大すぎる力があった……それが重要問題となって、彼女が他者と心を組み交わす際の制御弁となっている。
「パメラ。そんなコト些細な問題だよ」
しかし、レイはそれを一蹴した。
「罪を背負ってるのはあんただけじゃない。私だってそう」
「レイさん……も? 」
「ええ、なぜなら私はこの世界に来る前は殺し屋をしていたからね……人を殺した数は多分あんたの数十倍……罪のない人間に爆弾を持たせて自爆特攻させたり、とんでもない仕事を数え切れないほどこなしてきた。男と二人きりで核シェルター内で過ごす……だなんて変な仕事もやってたかな……」
淡々と裏家業について語り始めたレイ。さすがのパメラも身構え、おののいた。
「俺もロクな人間じゃない」
水原もレイに続いて独白する。
「俺は前の世界にいた頃から、予知能力のような力を持っていてな……それを使っては、人を傷つけたり、裏切ったりだとかを平然と行って誰かの為に使おうだなんて少しも考えなかった……俺達はみんな、心に何らかのトゲを打ち込まれとる。それに安心しな……どれだけあんたが桁ハズレの力を持っていようと、翔人がいる限りは誰も死なん……最終的にはな」
「最終的に? 」
水谷の意味深な発言に首を傾げたパメラ。そんな彼女に翔人が照れくさそうな顔で説明を始めた。
「パメラさん。オレには変わった力が備えられていまして……それは『時間をキッチリ一時間だけ戻す』というモノなんです」
「時間……を一時間……あ! 」
パメラは回想した。自分が巨大な車輪の驚異から逃れられた時、自分を押さえつけていた翔人は『今度こそ逃がさないように』と口にしていた。そこから導き出される答えはつまり……
「もしかして……私あの時、一度死んじゃったワケなの? 」
パメラの答えに、翔人は無言で頷き、申し訳なさそうな顔で説明を続けた。
「はい……最初はオレが押さえつけるのをパメラさんは無理矢理ふりほどいちゃって……その……車輪に下敷きになっちゃったんですね……だから……」
「だから一時間戻してやり直した……」
「その通りです」
パメラにとって、いや……この話を聞いてすんなりと受け入れられる人間が何人いるだろうか? あまりにも超常的な翔人の能力に、どこかペテンのような嘘くささを感じ取ってしまった。
しかしどう考えても避難するべき状況で、あえてその場に留まる方法を取って危機を回避した事実は、その突拍子もないスケールの能力を確かなモノだと感じさせる説得力があった。
翔人の能力は信じよう。そう思ったパメラは、もう一つ確信の持てない事柄について水谷に質問する。
「ミズタニ……さんでしたよね? あの、あなた方がこの世界とは異なる『地球』と呼ばれる場所から呼び込まれたというのは、本当なんでしょうか? もしもそれを証明できるモノがあれば見せていただけますか? 」
パメラは、我ながら意地の悪い質問だと感じながらもそう質問した。しかし、恩人であるミック・カインド以外の人間を信用することが出来なくなっていた彼女は、どうしても強固な確信が欲しかったのだ。
「なるほどな。まぁパメラちゃんがそう疑うのも無理はないな。それじゃあ一つ、我々が異なる世界の住人である証拠……になるかどうか分からないが、面白いモノを見せてあげよう」
そう言いいつつ、水谷は懐から手のひらサイズに収まる長方形の板きれのようなモノを取り出した。それは金属製のようで、表面には薄いガラスが張り付けられている。
「これは我々の世界でスマートフォンと呼ばれていた代物でな。どういうワケか俺だけがこの端末をこの世界に持ち込むことが出来た」
「これは一体……何の道具なんですか? 」
「遠く離れた人間と会話が出来たり、風景を写真や動画として保存したり、音楽を聴いたり……と何でも出来る便利グッズじゃ」
「シャシン……? ドウガ? 」
聞き慣れない言葉に困惑するパメラ。その反応を見た翔人達は、やはりパメラは異世界の人間ではないことに確証を得て、少し残念そうな表情を作っていた。
「まあ、百聞は一件にしかずじゃな。これを見てくれ」
水谷が慣れた手つきでその端末を操作するとガラス面から光が放たれ、まるで小さな世界がその中に納められるいるかのように、断続なく動き続ける写実的な絵画が映し出された。
「す……すごい! 魔法ですかコレは? 」
その現象に、思わず子供のように瞳を輝かせて食い入るパメラ。その姿は、先ほどまで神経を尖らせて翔人達を拒絶しようとしていた人間とは別人のようだった。
「これは俺らの世界では必要不可欠なIT技術と呼ばれる代物でな。主に電気を動力とする英知が詰まった高度な道具なんじゃよ」
スマートフォンから映し出された映像には、この世界では到底お目にすることの出来ない内容の目白押しだった。
大海原を不思議な力で大勢の人間が飛び交う映像。金髪の女子が情熱的に楽器を奏でる映像。張り巡らされたロープの上でボールを投げ合う男達の映像等々……どれもこれも新鮮な驚きに満ちていて、パメラはそれらに釘付けになっていた。
「これは全てあなた達が住んでいた世界の様子なの? 」
パメラの質問に、水谷はやや苦みばしった表情を作って答える。
「いや……このスマートフォンに記録されていた映像のほとんどは、俺らも見たことのない文化やテクノロジーが映されている……考えるに、これらの映像は、俺達が元いた世界とはまた違う発展を遂げた平行世界なんじゃないか? と思っとる」
「それはどういうことなの? 」
その問いには翔人が口を開いた。
「つまり……今さっきオレが一時間戻してパメラさんが生き残った未来を新たに作り出したよね? その時、パメラさんが車輪に潰された未来は消え去ったワケではなく、それはそれで、今いる俺達の世界とは違う、別の未来が続いているかもしれない……そういう考えだよ」
なるほど……とパメラの中でひとまずの合点がいったものの、続いて新たな疑問がインク染みのように湧き上がってくる。
「どうして水谷さんの……すまーとふぉん? にそんな映像が記録されていたんでしょうか? そもそも、なぜその道具を水谷さんだけが持っているんですか? 」
水谷はその深い皺が刻まれた顔を一瞬だけさらにしゃがれさせ、パメラの方に向き直って説明をした。
「……それは多分……俺が予知能力を持っているからだろうな」
「………………? 」
水谷の答えになっていない答えに言葉を噤んだパメラ。しかし、その反応をあえて待っていたかのように、少し間をおいて水谷は話を続けた。
「俺は前の世界でトラック……まぁ、バカでかい馬車みたいなモンに轢かれちまった直後にこの世界に呼び込まれた……何がなんだかよく分からなかったが、その時……とある映像が予言として俺の目に映った。それはちょっと不可解なモンだが……『一組の男女が暴君と一緒になって俺を殺す』ってビジョンだった……」
「あなたが暴君に……? それも男女って一体……? 」
「男女の姿はボヤケちまっててよく分からなかった……でも、確かに言えることは、その未来は確実に訪れるというもの……だから決めたんじゃ。俺はその未来までこの世界を生き抜かなきゃならんってな……そして旅を続けていく内に、翔人……レイ……ミレイと出会い、今に至る」
「なぜ? なんで自分が死んでしまう未来に向かって行動するの? そうならないように行動するのが普通じゃないの? 」
パメラの主張はもっともな話ではあったが、水谷はそれを否定した。
「それは違う。まぁ、俺の予言ってのはちょっと特殊でな……予知した未来に抗おうとすればするほどにその未来通りになっちまうモノでな……俺はコレを『運命の化かし合い』と呼んどるよ……だから、俺にとって殺される運命に向かうことこそが自分の為になり、ひいてはこの世界に迷い込んだ翔人達を元の世界に戻す糸口になっていると俺は直感した。だからこの世界に俺達を呼び込んだ何者かは、俺だけにこのスマートフォンを持たせてくれた。そう思っとる」
水谷が熱く語り終えると、翔人は彼に続いて熱の込められた言葉をパメラに告げた。
「だからこそ、オレ達はパメラさんのような仲間を求めているんだ。暴君の元へとたどり着く為の……圧倒的な力が欲しいんだ。さっきも言ったように、キミがたとえ暴走しようとしても……水谷さんが予知し、オレが時間を戻す。絶対にキミにイヤな思いをさせないよ。だから……一緒に来て欲しいんだ」
炎天下に焼かれた石のように熱気が込められた翔人の言葉。肉親にさえ裏切られたパメラの堅牢な心も、彼の言葉に対しては脆く儚いことには彼女自身まだ気がついていなかった。
どこかで会ったことあるような……不思議な懐かしさが翔人には感じられた。
「わかった……私も仲間に入れて」
「ほ……ホントに!? 」
「はい。よろしくお願いします! 」
パメラの承諾に、思わず握り拳を固く握りしめた翔人、そして嬉しさのあまり、彼女に飛びついて抱きつくミレイ。
「わーい! やったやったぁ! よかったよー! これで私、このパーティの女子はわたしだけだったから嬉しーよパメラちゃん!! 」
「はは……え? 」
無邪気にからみつくミレイに照れくさい笑みを浮かべるパメラだったが、聞き捨てならない言葉に一瞬で目を丸くしてしまった。
「え……女子って、ミレイちゃん……レイさんもいるじゃ…………まさか!? 」
「ふふ……パメラもまだまだだね。私を女だと勘違いしてたなんて」
「嘘でしょ……向こうの世界じゃそれが普通なの? 」
スレンダーで色気をたっぷり発散させているレイが、自分とは違う性であることにショックを受けたパメラ。思わず彼女……いや、彼のツヤツヤな髪に対抗しようとしてしまったのか、反射的に自分のボサボサになっていた髪を手櫛で整えようとした。
「パメラさん、気にしないで。レイはあっちの世界でもかなり特殊な分類だからさ……」
パメラをフォローしようとした翔人だったが、それがフォローになっていないことに彼は気がついていなかった。
To be continue.
まだ続きます。




