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No.23-01「ライトイニング」

(お題)


「今までの話を使って一つの作品を仕上げること」







「ハァ……ハァ……」



 パメラは焦っていた。



 息を切らしながら全力疾走している彼女の背後には、全長5mはあろう異形の存在が追走しているからだ。



 その異形の物は皮膚は昆虫と爬虫類の中間とも言える硬いゴム質で出来ていて、顔は目を持たずに円形の口だけを持ち合わせている。それだけでも充分に異質なフォルムを作り出しているが、さらにその生物は、明らかに人工物と思われる金属製の車輪を左右に携え、馬車のように回転させて移動することを可能にしていた。



 そう、それは正規の進化論の行程を経てした[生物]にあらず……



 この[ライトイニング]と呼ばれる世界の全生物を蹂躙する[怪物]なのだ。



「グボォシュラァァァァッ!! 」


 パメラは不気味な雄叫びを上げる怪物にしつこく追われ続け、森の奥へ奥へと逃げつつていたが、とうとうその逃走劇に終止符が打たれてしまう。



「行き止まり……! 」



 パメラの決死の走りを止めた存在は、切り立った崖だ。その高さは10mをゆうに越える。飛び越えるのには不可能、登っていくとしたら時間がかかりすぎる。



「グオォォォォォォォォッ! 」



 迫り来る怪物はパメラより5mの距離まで近づいてきている。このままでは、彼女がその巨大な車輪に挟まれて肉塊と化してしまうことは必至! この状況を誰かが見ていたのならこう呟いているだろう……



 絶体絶命……と……



「ちょっと待てええぇぇぇぇッ!! 」



 そんな中、パメラは何者かの叫び声を耳に入れた。それは怪物の後方より発せられた、勇ましく張りのある男の声だった。



「今助けるぞ! 」



 声の持ち主は金属製の防具を身に包み、両手には鈍色に輝く長剣が握られていた……その風体から、彼が戦闘を生業とする狩人か兵士であるだろうと見当をつけさせるのは容易かった。



「そりゃあッッ! 」



 男は怪物の背中に向けて長剣を力の限り振り下ろし、その剣先をズブリとゴム質の皮膚に刺し込んだ!! 



「う!? うわあッ!! 」



 しかしダメだ! その弾力ある皮膚は、あろうことか鋼鉄製の剣でさえ難なくはじき返してしまった! 



「大丈夫!? 」



 パメラは体を吹き飛ばされてしまった男の元へと駆け寄り、その安否を確認した。



「痛てて……無事ですよ……なんとかね」



 男が軽傷で済んだコトが分かるとパメラはほっと胸を撫でおろし、その諸悪の根元へと視線を向けた。怪物は相変わらず噛み合わせの悪い鉄の戸を開くようなうめき声を発して興奮していたが、その姿を覆い隠すように二人の女性が堂々とした仁王立ちでこちらに背中を向けていることにパメラは遅れて気がついた。



翔人(しょうと)、ここは私とミレイにまかせといて」


「そうそう! 翔ちゃんはその子と一緒にいてあげて。今からレイちゃんと、あのイカレ車輪をやっつけちゃうから! 」



 パメラの前に突如現れた二人は、お互いに「レイ」「ミレイ」と呼び合っていた。



 レイと呼ばれた女性は、長身で細身……男性とすれ違えば、10人中10人は振り返るような美貌の持ち主で、片手にはしなりの良さそうな鞭が携えられている



 対してミレイと思われる女性の方は、小柄でまだ幼げの残る顔立ちで、下手をすればレイと親子ほどの年齢が離れているようにも見える。



 おおよそ怪物と一戦交えるような戦士には見えない二人だったが、次の瞬間にパメラは彼女達を見た目で侮っていたことを思い知らされる。



「いくよッ!! 」



 まずレイは怪物の口元へと向けて得物の鞭を勢いよくしならせ、猿ぐつわのように巻き付けてしまった。一瞬の早業だ! 



「フグォォォォッ???? 」



 顎が突如として拘束されてしまった怪物は、状況を飲み込めずにうろたえて悶える。そしてその姿を見たミレイはニヤリと微笑み、開きっぱなしになった怪物の口内へと向かって跳躍した! 



「外側が硬いなら……中から攻めればいいってね! 」



 そして次の瞬間! ミレイの全身が水しぶきのように弾け散り、その無数の破片はそれぞれ蛇とクラゲの中間のような、おぞましいクリーチャーへと変貌した! 



「いっくよぉー!! 」



 ミレイが変身した100体以上のクリーチャーが一斉に声を上げてエコーとなって周囲に響きわたったかと思えば、鞭で拘束された怪物の大口めがけて魚群にように次々と突き進み、その体内へと飲み込まれてしまったのだ! 



 あまりにも一瞬で、あまりにも現実離れした光景に身震いするパメラ。そんな彼女の手をそっとつかみ取って心を落ち着けようとしたのは、ついさっき先制攻撃を失敗して地面に叩きつけられた戦士……レイ達に翔人(しょうと)と呼ばれていた男だった。



「大丈夫! 心配ないよ」



「え……うん……」



 翔人の温もりに落ち着きと安堵を覚えるパメラ。どうやら目の前の怪物は間もなく退治されるらしい。



「う……ググ……グギュオララアアアッ!! 」



 体の内側からミレイの分身が暴れ回っているおかげで、怪物は大きく体を揺らして悶絶し始めた。体表がボコボコと波立っている様子は、同族でなくとも同情を覚えるくらいにえげつなく、容赦がなかった。



 そしてついに……



「オフブグユアアアアッーーーー!!!! 」



 怪物の禍々しい体表が破裂し、火薬が爆発したかと思うほどの轟音が響きわたった。



 怪物は倒されたのだ! 



「うげぇぇぇぇ………コレやるといつもベトベトになっちゃうのがイヤなのね……」



 無数のクリーチャーに分裂していたミレイは、元の少女の姿へと戻っていた。その全身は緑色の粘液にまみれて健全な状態とは言えなかった。



「お疲れミレイ。ほら、タオル。近くに池があったから洗って来なよ」



「ありがとレイちゃん……でも覗かないでよ」



 一仕事終えた二人は、和やかな雰囲気で戦闘の張りつめた空気を一新した。その様子を見守っていたパメラは傍らの翔人に話しかける。



「あの……あなた達は一体……? 」



 目の前で繰り出された一連の動きは、趣味がてら怪物狩りをしている人間の物とは明らかに違う。彼らは何らかの武装組織に属したプロなのではないか? とパメラは予想したが……



「あ……」



 パメラは気がついた……



 自分たちがいつの間にか影に包まれている? と。



 それ何かが上空から降り落ちる前触れ。自分と翔人の二人だけを覆うような巨大なグレー空間。



 視線を上空に向けると、そう。先ほど圧倒した怪物の体の一部、巨大車輪がこちらに向かって真上から飛来してきていた! 



 ミレイの攻撃による衝撃で真上に打ち上げられたのか? それとも怪物が散り際に一矢報いようと、力を振り絞って投擲したのか? パメラにはその理由は分からなかったが、確かに言えることは……



 このままでは二人とも「圧殺」されてしまう……ということだけ。



「動くな二人とも!! そのままだ! 」



「え!? 」



 困惑するパメラの意識に、突然突き刺すようなしゃがれ声が聞こえた。そしてその声は確かに「動くな! 」と命令したのだ。



「伏せて! 」



 その声が起動スイッチになったかのように、翔人はパメラに覆い被さってその場から逃げられないように押さえつけた。



 どうして? このままじゃ車輪に潰されてペチャンコになっちゃうのに? 



 その行為が信用できないパメラは、力づくで翔人を押しのけて自分だけ脱出しようと考えたが、わずか0コンマ数秒後にその考えは間違っていた……と思い知らされる。



「ガッグオオオオンッ!!!! 」



 宙に舞った車輪は一つだけでなかった……落下する車輪は二つだったのだ。



 奇跡としかいいようのない出来事だった。パメラ達に向かって落下してきた車輪に、もう一つの別の角度から飛来した車輪が突進して空中激突を起こしていた! 



 それによって、左右に弾かれた車輪はパメラ達を避ける形となり、結果的に二人とも微動だにしなかったことが幸いとなり、無傷で済んでしまった。



「ホラ、俺の言った通りだろ? 」



「ありがとう、水谷さん。『予言』のおかげで助かったよ……」



「はは、コレは予言じゃない。運命の女神との化かし合いさ」



 翔人とそんなやり取りを交わしながら現れた男。(名前は「水谷」と呼ばれていた)彼は60……いや、80歳はあろう高齢で、とても怪物相手に戦いを挑むような風体ではなかった。しかし、会話の端々から「予言」という単語が飛び交う様子から、パメラはこの老人が未来を見通す不思議な能力を持っているのだと理解した。



「あ……あの……」



「あ! 大丈夫ですか? 怪我はないですか!? 」



 翔人は救出したパメラと向き合い、彼女の安否を確認した。その言葉は事務的ではなく、心から放たれた正直で真摯な想いが伝わってくる。



「はい……大丈夫です。ありがとうございます……ただ……」



「ただ……? 」



「そろそろ放してくれても……大丈夫ですよね? 」



「あッ! 」



 その言葉でようやく彼が、未だにパメラを抱きしめていたままだということに気がつき、「ごめんなさい! 」と彼女を解放して野良猫のような跳躍でその場から離れた。



「す……すみません……その、緊急事態だったもので……」



「いえ! そんな、いいんです! ただ、ちょっと締め付けられて苦しかっただけで……」



「締め付け……!? すみません! 『今度こそ』逃がさないようにって、必死だったもんで……」



「『今度こそ? 』どういうことですか? 」



 少し要領を得ない翔人の発言に疑問符を浮かべるパメラだったが、そんな彼女の思考を手助けするように、鞭を持ったレイが話しかけてきた。



「翔人には『特別な力』が備わってるんだ……簡単に言ってしまえば、キミは一度大けがを負ってしまったか……もしく死んでしまったのかもしれない」



「え……!? どういうことなんですか? 」



「多分キミはあの時、抑え込む翔人を振り払って自分だけ逃げようとしたんじゃないかな? そのせいで軌道の変わった車輪に潰されてしまった……だから『やり直して』次こそは逃げられないように思いっきり抑え込んだ……そんなところだろ? 翔人」



「うん……その通り」



 レイの補足によって、より一層謎が深まってしまったパメラ。このあまりにもイレギュラーすぎる4人達の会話についていけず、頭と心の整理が出来ないままでいた。



「まぁ、無事でなによりだよ。ホラ、立てるかい? 」



「はい……」



 レイに助け起こされたパメラは、改めて4人……いや、1人はただ今行水中なので3人の顔を見渡した。



 翔人も水谷もレイも、顔立ちは彫りが浅く、異国の者だということが一目瞭然だった。そしてそれはパメラにも同じことが言え、どことなく親近感を覚えて気持ちが落ち着いた実感を覚えていた。



「自己紹介しとこうか? 私はレイ。さっき池に体を洗いに行ったのがミレイ。キミを仰向けに押し倒したのが翔人。そしてヨボヨボなのが水谷だ」



 雑な紹介をされたことで「おいおいおいおい」と口を挟む翔人と水谷。そんな彼らの反応を見て、少しだけ口角をゆるめたパメラも、笑顔で自己紹介をする。



「私はパメラです。よろしく」



「パメラ!? パメラって言うんですか? 」



「そう、ですけど? 」



 翔人は自己紹介したパメラに対し、突然鬼気迫る反応を見せて彼女を困惑させた。



「あの……! 失礼でなかったら教えてください! キミに……パメラさんにもう一つ別の名前があるのなら……! その顔立ち……明らかに『日本人』ですよね!? オレ達と同じ異世界の人間なんですよね!? 」



「い……? 異世界!? 」



「覚えていないんですか? 元いた世界の記憶を! 日本で生活していた頃の思い出を! 」



「元いた……世界……」



 翔人の言葉に、何か思い当たる節を見つけたパメラだったが、その時傍らにいた水谷が険しい顔を作り熱を帯びた翔人の詰めよりを中断させた。


「翔人、レイ! いかんぞ! ミレイが危ない! 」



「何!? 」



 パメラが想像するに、水谷は予知能力で何か異変を察したようだ。彼の言葉を聞いた途端に翔人も水谷も血相を変えて走り出してしまった。



「ちょ……ッちょっと待って! 」



 1人で取り残されそうになったパメラも、全力で彼らの後を追う! 

目的地はミレイが水浴びをしているハズの池……彼女の身に、何か危険が迫っているに違いない。



「ヒィィィィッ!! お助けぇぇぇぇ! 」



 その場にたどり着いた時、翔人達一行は彼女に単独行動をさせたことを後悔した。



「やめてよ! ひぃぃッ! ギモヂワルィィッ!! 」



「ミレイ! 大丈夫か!! 」



「まいったね……まさかあの池……池じゃなかったとは」



 皮肉っぽく苦笑いを浮かべたレイの言葉の意味は、パメラにもその状況を一目見ただけで充分に察することができた。



「あの池の水……に見える物体は、まさか全部『スライム』!? 」



「その通りだパメラちゃん。あいつはレイクスライムと呼ばれとってな、池に擬態して水場を求めた動物を飲み込んじまうとんでもない悪タレだ! 」



 ミレイはまんまの怪物の罠に掛かってしまったようだ。レイクスライムは、透明なゼリー状で半径5mはあろう巨大な球体の体を持つ。この怪物を仕留めるには、その内部に見えるサッカーボール大の核を打ち砕くしか方法がない。



「うおおおお! ミレイ! 今助けるぞ! 」



 まずは翔人が両手剣を大きくスウィングし、スライムのゼリー状ボディを斬りつける! 



 しかしダメだ! スライムを斬りつけたところで、スグにその切り傷を再生させて元通りの状態に戻ってしまう。



「翔人! 私に任せろ! はああああッ!! 」



 続いてレイが高速の鞭捌きで、次々とスライムの体表に打撃を与えていくが、これも「のれんに腕押し」柔らかで弾力のあるボディは一切の打撃を受け入れなかった。



「ふえええん! 絶体絶命だよぉぉぉぉ! 」



 二人の攻撃を防がれて取り乱すミレイ。彼女の体はスライムに取り込まれている最中で、目と口元だけが僅かにスライムに覆われずに済んでいるという状況だった。



 彼女お得意のクリーチャー分身の秘技も、ねっとりとしたスライムの中では一体一体が身動きがとれなくなってしまうので封印されたも同然だった。



「このままじゃミレイが…………翔人! 『アレ』を使えるか!? 」



「レイ! ちょっと待てよ、『アレ』はできることなら使わずに済ませたい! もう少し……何か方法は」



 ミレイの危機に混沌が押し寄せる一行……しかし、そんな中で冷静な振る舞いでスライムに近寄る1人の影があった。



「翔人……さん? あの核を『破壊』すればスライムを倒せるの? 」



「パメラさん!? 危険だ! 離れて! 」



 さっきまで怪物に追いかけられていたパメラが、ゆったりと歩みを進めて強大な敵へと近寄っていく……翔人はそんな彼女を止めようとしたが、遅れて合流した水谷よって引き留められる。



「水谷さん! 放してくれ! このままじゃ彼女が……」



「いや……いいんだ、彼女に任せてみてくれ」



「え? 」



 パメラはスライムと対峙すると、ゆっくりと人差し指で突き立て、その先を核に合わせ、大きく息を吸い込んだ。その時、彼女を取り巻く空気がパリパリと突き刺すように乾いていく変化を、翔人は見逃さなかった。



 そして次の瞬間……! 



「貫けッッ!!!! 」



 パメラの張りに張った気合いの一声と共に彼女の指先から太陽を直視したかと思う程の光が発せられた! 



 そして一筋の光線が一直線に伸び、スライムの衝撃吸収ボディを抉り進んで一気に核を粉砕してしまった! 



「グリュリリリグォォォォッ!! 」



 排水溝に汚水が流されたイメージを沸かせるスライムの呻き声が聞こえ、そして遅れてこの場から遙か数百メートル先の方向で大爆発音が発せられた。



 パメラの放った光線は、スライムを貫通してそのまま森を突き進み、遂には爆発を伴って木々を破壊したのだ。



「ひええええっ! 」



 スライムから解放されたミレイはそのままレイによって保護されたが、もはや彼女達の関心はそれどころでは無くなってしまっていた……



「パメラさん……いま……のは……? 」



 鳩につつかれたような表情で、たった今起こった現象について問いただす翔人……パメラは浮かばない雰囲気で一言だけ……



「……魔法……」



 とだけ呟いた。





To be continue.

次話に続きます。

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