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No.22「裸足の理由」

今回のお題は



(お題)

1「夕立ち」「家族ごっこ」

2「裸足」「葬り去る」

3「審判」「体調管理」





「あら……急に降ってきましたねぇ。夕立……」



「そうですね」



 車のサイドウィンドウをバタバタと叩く雨音が私たち二人だけの気まずい家族ごっこを誤魔化してくれた。



「ミサキちゃん……傘は持ってきたの? 」



「大丈夫ですよ。スズネさんは大丈夫ですか? 帰り道混みますよ? 」



「いいの。少しでも私、ミサキちゃんの役に立ちたいの」



「……いいですよ、そういうの……」



 スズネさんは、私の父の再婚相手だ。年はなんと28歳……私と6つしか違わない……そんな人を母として認識するには無理がある。



 父の前妻……つまり私の実母は、5年前に病気で他界した。50代で、早すぎる死だった。



 父はその時、娘の私以上にショックを受けて、しばらく立ち直ることができなかった。



 鬱にでもかかってないか? 生きる気力を失ってないか? などと、心配しつつ……私はわざわざ飛行機で2時間かけて東京から長崎の実家まで父の様子を伺っていたのだけど……



 突然……先月突然、男ウケしそうな雰囲気の女性と一緒に写っている写真を私に送ってきて「この人と再婚します」だなんて言ってくるのだから驚きを通り越して呆れてしまった。



 だから二日前、有給を使って父とその再婚相手に会うために長崎の実家に帰ったんだけど……本当に最悪なシチュエーションに遭遇してしまったのだ……



 実家に到着した私は、玄関の呼び鈴をピンポーンと押して見るも、まるで反応がなかった。



 聞こえなかったのか? ともう一度押すと、家の中から「きたよ! いそいで! 」などと慌ただしい声が聞こえて数分後……



「あ! いらっしゃい……ハァ……ハァ……よ、予定より早かったのね! 」



 と息を切らしながら、スズネさんが裸足で私を玄関先で迎えた……



 お父さん……スズネさん……私もう22よ。そんな様子で出てきたら、直前まで「ナニ」をしていたかなんてバレバレだからね。



 きっとお父さんはこの人の色香に惑わされてしまったに違いない……とそ真剣に思いながら、その時に視界に入ってしまった汗で滲んだTシャツを来た父親の姿を脳内から葬り去る努力をした。



 もし私が全知全能の神だったとしたら、即刻父親にスズネさんと別れるように審判をくだすというのに……



 そんな不快感しか感じられないスズネさんと、どうして私は今、同じ車に乗ってドライブをしているかというと……私が東京の自宅に帰る為に、空港までバスで行こうかと考えていた矢先に「わたし、車でミサキちゃんを送っていくね! 」などとスズネさんが余計な立候補したせいである。



 おかげで一時間近く、ほとんど会話もないまま息の詰まる空気を共有するハメになってしまった。



「着きましたよ」



 まぁ、それもこれで終わりだ。ようやく空港の駐車場にたどり着き、私は事務的に「ありがとうございました」とだけ伝えてその場を立ち去った。



 若い女にたぶらかされて鼻の下を伸ばした父親、そしてそんな父をもてあそぶような女の態度に、怒りの感情が沸点を超えそうだったが、必死になって抑え込んでいた。



 いずれ頃合いを見て、父親にスズネさんのことをもうちょっとよく考えた方がいい。と、次に長崎までこられる日付を確認しようと上着のポケットに手を突っ込んで携帯電話を探ってみると……



「あれ……? 」



 最低だ……私は携帯電話を車の中に置き忘れたらしい。



 もう今日は顔を合わせたくないと思っていた人間の元へもう一度赴かなければならない悔しさと、もうとっくに空港から出て行ってしまったかも。と案ずる気持ちが混ざり合って、私は猛スピードで来た道を後戻りした。



「あ……った! まだ駐車場にいた」



 車は未だに駐車場に居座っていた。



 何をやっているのだろう? と不思議がりつつドアをノックしたけど、その時私は車の中が重大な事態に陥っていることに気が付く。



「スズネさん!? 」



 スズネさんは、運転席のハンドルにのし掛かるように、グッタリとしながら大量の汗をかいていた。



 私はすぐに車内に入ってスズネさんに何度も呼びかけた。



「スズネさん! スズネさん! 」



「……ミ……ミサキ……ちゃん……? 」



「大丈夫なの!? しっかり! 」



「だ……大丈夫……バッグの中に……薬と水……ある……から……」



「それを飲ませればいいんだね? 」



 かろうじて返事をしたスズネさんの言うとおり、私は彼女に薬を飲ませ、そのまま車内のシートを倒して看病をすることにした。



「いったいどうしたんんですか? 車の中で急に倒れるだなんて……」



「へへ……持病なの、コレ」



「大丈夫なの? 」



「うん……こうやって薬飲んで、しばらく横になっていればよくなるから……体調管理してれば、こんなにスグには来ないのになぁ……」



「何か出来ることはある? 」



「……それじゃあ……」



 スズネさんは少しためらいながらも、靴下を脱ぎ捨てて、その白く淡雪のような素足を、助手席にいる私の方へと向けた。



「足裏を、ちょっとマッサージしてもらってもいい? それでかなり苦しいのが紛れるの……」



「わかった、それだけでいいの? 」



「うん。ありがとう……ミサキちゃん」



 スズネさんは、さきほどまで歪んでいた表情を無理矢理笑顔に作り替えてそう言った。人好きする愛嬌たっぷりの表情に困惑しつつ、私は言われた通り、彼女の足裏を指圧し続けた。



「ありがとう……だいぶ楽になった」



「そう……よかった……」



 そして、昨日の一件について……私が誤解していたコトに気が付いた。



 汗だくで慌てて私の前に現れた時も……今みたいに発作が起きて、父さん看病してもらっていたからなんだね……



 そしてもうしばらく指圧を続けていると、スズネさんは少し気持ちを落ち着かせたようで、そのままの状態で、自分のことを赤裸々に語ってくれた。



 スズネさんは、生まれつき病弱で、毎日薬を飲まなければ命を落としかねないほどの持病を患っているらしい。



 彼女は高校生の頃、その当時担任教師をだった私の父に何度となく世話になっており、辛かった学校生活もなんとか乗り切ることが出来たのだとか……



 そう……私の実母もスズネさんと同じく病弱だった……だから父は体の弱い人間のコトをよく理解できた。



 そして時が経ち、2年ほど前にたまたま駅で再会した二人は、そのままお互いの近況を話し合う内に、特別な感情が芽生えてしまったらしい。



 スズネさんにとっては高校生時代の恩師、父にとっては妻に似た境遇の元教え子。



 倫理的なコトはさておいても、二人が引かれあうには全く不思議ではなかった。



「ごめんね……ミサキちゃん……本当はもっと頼れるところを見せたかったんだけど……」



「無理しないでよ……スズネさんのおかげで私は無事空港まで着けたんだから……それだけで十分だよ」



「……ミサキちゃん……ホントにいい子なんだね……嬉しいよ」



「い……いいから! あなたがそんなんだと、父さんも心配するじゃない! 」



 照れくさくなって、顔から蒸気が上がるかと思った……父さんが惚れたのも無理はない……



「ミサキちゃん……こんな弱っちい継母だけど……これからもよろしくね……」



「何いってるの……弱くなんてない。私の母親は、強くて可愛いけど、ちょっと無理して世話がかかる困り者……てだけのことだよ」





THE END

 執筆時間【1時間34分】


 慣れない作風&睡魔に襲われて大オーバーしました……


※次回で最終回です。

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