No.20「ペイン」
今回のお題は
(お題)
1「炎」「頭痛」
2「実行犯」「鈍感」
3「行きずり」「白紙」
俺は昔から頭痛に悩まされていた。
よく知らない連中からしたら、たかが頭痛と言うだろうが俺が抱えるのは、『群発頭痛』っていう厄介なモンで、ひとたびその頭痛が発症すると脳味噌の中をバーナーで焼かれるってくらいの苦痛に襲われてしまう。
完治する方法はほとんど無いに等しく、鎮痛剤でどうにか苦しみを和らげる他対処出来ない。
痛みは前振りなく突如襲ってくる……それは時には失神してしまうほどに凶悪だ。しかし、それ自体は直接死に関わるモノではないので周囲から理解されず、苦痛でのたうち回る姿を見て変人扱いする始末だ。ハッキリ言ってそれが一番辛い。
そして俺の頭痛は群発頭痛の最も酷い状態らしく、いよいよ鎮痛剤をもってしても痛みを抑え込むことが出来なくなってしまっていた……
俺はとうとう会社を辞めた。
貯金はあったが収入の途絶えた今、いつまでもじっと部屋に閉じこもっているワケにはいかない。
かといって働こうにも頭痛が原因でロクに動けない……
そして行き詰まった俺は、いよいよ手を出してはならない領域に足を踏み込んでしまった。
麻薬だ。
とあるツテから手に入れた麻薬を服用すると、不思議と頭痛に襲われることはなくなった。むしろ今まで味わったことのない軽やかな気分に包まれ、世界が明るく見えた。
麻薬によって頭痛を抑え込んだ俺は、再就職に成功してしばらくは安泰した生活を送るコトが出来た。
しかし……やはり麻薬は麻薬だ……
徐々にその効果が薄れていき、加えて薬の値段も跳ね上がったことで、どんどん蓄えが減り……ついには家賃すら払えない状態にまで追い込まれた。
「少しでいいんだ……! 少しだけでいい! 分けてくれよ……そうしないと頭痛が……」
忍び寄る頭痛の再来を恐れた俺は、なんとか麻薬を手に入れたい一新で売人に懇願するも……
「すみませんねぇ……やはりコレを渡すにはキャッシュが必要なんですわ。どうしても欲しいのなら盗みでもなんでもして現金を持ってきてくださいよ」
と、あしらわれてしまう。俺は追い込まれてしまった……
そうして俺は宛もなく街をうろつくことになった。
怖い……恐ろしい……もうすぐ頭痛がやってくる……
天を仰ぐと、真っ白な綿雲の中に、ちらちらと灰色の雲が混在している。もうすぐ雨が降る予兆だ……
雨が降ると頭痛に襲われる時が多い……俺の心は焦り、慌てた。
「どうにかして……どうにかして金を……」
もう頭痛を抑える為なら殺しの実行犯になったって構わない……! そんな発想に至るまでに俺の良心は鈍感になっている。
とにかく金だ……金さえどこかにあれば……!
砂漠でオアシスを求めるが如く徘徊していると、通りの向かい側にあるATMから、いかにも大金を下ろしたように見える老人の姿が目に付いた。
もう……もうこれしかない!
「ごめん! 」
俺はこの先数日分の体力を前借りするつもりで全力疾走し、老人が抱えたショルダーバッグをかすめ取った。
「泥棒ッ! 誰か! 誰か捕まえてくれェェェェッ! 」
背後から聞こえる老人の叫び声……心は痛むが、ここで躊躇してはならない。
俺の頭痛は何に代えても抑え込まなければならないのだから。
「どけどけぇーッ! 」
俺は行きずりの歩行者をなぎ払うように全力疾走し、とにかく前へ、前へ足を踏み込んだ。
走って……走って……走り抜いて……周囲の景色が白紙に思えるようにひたすら……まっすぐ……速く!
「ハァ……ハァ……ヘヘッ! へへへッ!! 」
なんだか……急に笑いが止まらなくなってきた。
そういえば全力で走るだなんて久しぶりだな。
子供の頃……まだ頭痛を知らなかった頃を思い出す……
そう……朝から……日が暮れるまで走り回って……
ありゃ? どういうこった?
俺……いつの間に……空にいるじゃねえか?
どういうこった? でも、いいや。なんだかたのしいし。
そういえばずつうもぜんぜんしない……あたまがすっきりする……
そうか……ひさびさにはしったから、そのおかげでずつうがなおったんだ……
はは……
ははは……
…………
……
その日、夕方のニュースで一人の男の訃報が伝えられた。
男はひったくり犯で、その逃走中に交差点に飛び出し、大型トラックに撥ねられて即死。
その体からは大量の麻薬反応が検出され、警察は薬物による混乱による奇行による事故死と判断した。
彼が頭痛に悩まされていたことは……誰にも伝えられなかった……
『群発頭痛は、心筋梗塞・尿路結石と並ぶ、強烈な痛みを伴う三大症状の一つとされている。』
『痛みから逃れる為に、高所から飛び降りたり、拳銃で自らの頭部を撃ち抜く者が少なくないことから、別名「自殺頭痛」と呼ばれることもある』
THE END
執筆時間【55分】
大台の20作目は重い話になりました。群発頭痛というモノを知っていただく為の啓発的なモノとして読んでいただければと思います。
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作品で紹介した麻薬で頭痛を抑えるという方法は事実に基づく手段ではなく、あくまでも架空の話における事象です。当作品と同様の行為をしたことによって生じたトラブル等に関しては、作者は一切の責任を負いません。
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