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No.19「シン・デ・レラ」

今回のお題は



(お題)

1「一方的」「ガラスの靴」

2「果たし合い」「答え」

3「正義感」「蝕まれる」



 満点の星空が輝く煌びやかな夜に、王城で催された舞踏会。それが全てのはじまりだった。



 その舞踏会に、すれ違う者は全員振り返るほどの絶世の美女が現れた……彼女は「シン・デ・レラ」そう名乗った。



 彼女の一方的なアプローチに負け、王子は共に舞い、共に笑い、共にお互いの瞳を見つめ合った……



 高鳴る鼓動……お互いの肌から伝わる体温……



 そのロマンスは成就される直前だった……



「ゴオォォォォンッ!! ゴオォォォォンッ!!」



 しかし……12時の鐘が鳴り響いたその瞬間、彼女は野生動物の如き俊敏さで王子の元を立ち去り、王城から飛び出そうとしたのだ! 



「待って! 待ってくれシン・デ・レラ!! 」



 必死に追いかける王子。しかしシン・デ・レラの意外なほどの素早さに追いつけず、とうとうその姿を見失ってしまった。彼女のランニングフォームには無駄がなかった。



「ハァ……ハァ……しまったな……なぜ急に帰ってしまったんだ…………ん? 」



 彼女を諦めて城へと引き返す王子は、途中の階段になにやら虹色の光を放つ硬質な物を発見する。



「これは……!? 靴……!? ガラスで出来たハイヒールだ!! 」


 間違いなく、それはシン・デ・レラが落としていった物だった。そして王子はそれを両手で大事に掲げてまじまじと見つめてこう呟いた……


「すげえ……こんな靴であんな走りが出来たのかよ……」



 そして、しばらくの時が経ち……


「フフ……王子のヤツ、そろそろ私を見つけてくれそうね」



 舞踏会の一件から一週間が経過。その頃シン・デ・レラは一人ほくそ笑み、バイト先であるバーの床を掃き掃除していた。



「シンちゃん、もっと真面目に掃除してよ……キミ、ファンが多いからって手抜きしすぎだよ」



 あまりにも力の入っていないシン・デ・レラの仕事ぶりを咎めるマスターだったが、彼女の鼓膜までその言葉は届いていない。



 彼女は今、大いに浮かれていた。



 へへッ! クソったれ魔女の魔法のおかげで、エッグイ美女姿になって王子をたぶらかしてやったぜ! 後はそれとなく自然な感じで脱ぎ捨てた靴を頼りに、王子のヤツが私を探しにくるのを待つだけ! へッ! これで玉の輿は間違いねえってコトよ! 



 欲望をむき出しにしたシン・デ・レラの顔は無意識に邪悪な笑顔を作り出していた。マスターはそんな彼女を不気味がって、ひとまず外の空気を吸いにいこうとドアを開ける。


 しかし、そこに現れたのは飲み屋通りの陰鬱な空気ではなく、この場には不相応な高貴な印象を放つ、一人の青年の姿だった。



 やっべ! キタキタ! ついに来たッ! よし! ここが正念場だぞ私! いかにも可愛そうでひもじい雰囲気を発散させて、相手の庇護欲に訴えかけるのよォォォォッ! 



 シン・デ・レラは2秒でさっきまでのだらしない表情を一新! 薄倖の美女になりきった。



「お……王子様? こ……こんな場所に、一体どうして……? 」



「この店の店主か? 少し聞きたいのだが、ここで働いている者や、出入りしている者の中に、20代ほどで、髪は金髪。青い瞳で身長が僕の肩ほどの娘はいないか? 」



 王子はシン・デ・レラの読み通り、ガラスの靴の持ち主を捜しているようだった。それが分かった彼女は、わざとらしく王子から顔を背けて、自分が呼ばれる時をそわそわしながら待機した。



「20代……ええ、一人心当たりがあります……ウチの従業員なんですが……」



「本当か!? 是非ともここに呼んでいただきたい! 」



「ええ、今すぐお呼びいたします。というよりも、スデにこの場にいるのですが……」



 マスターが「シンちゃん! 」と彼女を呼ぶと「は……はい……」と露骨なしおらしさな雰囲気を持って王子の元へと近寄った。



「王子様……私ごとき場末のバーで働く薄給の小娘に一体何の用件でしょうか……? 」



「薄給で悪かったな……」と小声で呟くマスターを尻目に、王子は突如ひざまずいてシン・デ・レラの足首を掴んで履いている粗末な靴を脱がし始めた。



 その王族らしからぬ行為に目を丸くするマスター。そして待ってましたァァ! とばかりに頬が緩むシン・デ・レラ。



「やはりだ……ピッタリはまった! 」



 王子は生足となった彼女に件のガラス靴を履かせ、目の前の女性が舞踏会で知り合った美女なのだと確信した。



「キミだね! キミがあの時のシン・デ・レラなんだね! 」



 興奮した面もちで、彼女との再会を喜ぶ王子。そして画策が成就する確信を得たシン・デ・レラは「そ……その通りでございます! 」と正体を明かした。



「やはりそうか……! 会いたかったぞ! シン・デ・レラ! これから一緒に……」



「これから……一緒に……!? 」


 うわぁああッ! いきなりプロポーズかよ! 気がはええ! でも嬉しィィーーッ! これで私もセレブの仲間入りよぉぉぉぉッ! 



 頭の中がカーニバル状態の彼女だったが、その宴も次に続く王子の言葉で強制終了させられる。



「僕と一緒に……オルィンピックを目指そう!! 」



「はい! 喜んで……え……お……? おる? オルィンピ……ク? 」



「ああ! キミも知っているだろう? 四年に一度開催されるスポーツの祭典! オルィンピックだよ! 次の開催は三年後……この国で行われるだろう! 」



「え……? あ……? は? 」



 脳内の処理が追いつかないシン・デ・レラ。彼女は突然言葉の通じない世界に放り込まれたかのように、言語を発する機能を失っていた。



「さあ! もう一度キミの走りを見せてくれ! これから全力でキミをサポートするつもりだ! 一流の練習環境と一流のコーチをつけよう! キミなら9秒58の壁を打ち砕けるだろう! 」



「ちょ……ちょっと……ちょっと待てや! 」



 ようやく意識を取り戻したシン・デ・レラは予想とは違う王子のアプローチに憤りを露わにする。



「おいてめえ! ちげーよ! 私が期待してたのはそうじゃねえよ! もっとこう……付き合ってくれとか! 一緒に××したいとかあるだろうがよ!! 」



「え…… 一体何を!? 」



 本性を露わにしたシン・デ・レラに狼狽える王子。もはや彼女の怒りは果たし合いをしない限りは収まらなかった。



「クソったれチ○ポコプリンスよぉ……オルィンピックだってぇ? 舐めたコト言いやがって……今、その答えを教えてやるよっ! 」



 シン・デ・レラは、気合いを込めてその場でジャンプをし、思いっきり床板に穴を開ける勢いで着地! 


 するとどうだろう? 彼女の足の皮膚からにじみ出るように、クリスタルの輝きを持った靴が現れ、それと同様に全身からガラスが湧き出し、それは鎧のような形状となって彼女を包み込んだ。



「あるぇーッ! シンちゃん!? なんなの? なんなのコレ!? 」


 その姿に腰を抜かすマスター。そして身動き一つとれず、声を失う王子。



「魔女から頂いた魔力はまだ残ってんだよォ……よく見なヤサ坊……コレが私の能力『グラスフット・カタストロフィー』よ!! 」



 得意げにそう言い放った彼女は、逃がすかとばかりに王子を無理矢理抱き寄せ、体の中に吸収してしまうかと思うほどに強い力で締め付けた。



「ま……待てシン・デ・レラ! 落ち着け! もっと話し合おう! キミの俊足なら、100m走だけでなく、走り幅跳びや、三段跳びだって……」



 彼女の気持ちに一切掠ることのない王子の言葉に、彼女はとうとう本格的にキレてしまう。



「ぬかせぇ! このスポーツ狂いのモヤシッ子プリンスがぁぁぁぁ! もう許さねえ!! 」



 シン・デ・レラが力を込めると、拘束された王子の体が徐々にガラスに変わっていく! 



 そう、これこそ『グラスフット・カタストロフィー』の真価! 触れた相手をガラスに変えてしまうという恐ろしい能力なのだ! 



「うわああああ! ちょっと待って! 助けてくれええええ! 」



「もう遅いわ! このまま悪趣味なガラス人形と化せぇぇぇぇッ!! 」



「うわああああッ!!!! 」








「フフ……計算通りだワイ……しかしここまでやってくれるとは、想像以上の働きぶりじゃな……」



 漆黒の部屋にて、水晶玉に写るシン・デ・レラと王子とのやり取りを監視しながらほくそ笑む老婆が一人……



「これで王子が死ねば国中に混沌が訪れるだろう……フフ……そこにワシが付け入れば、王国征服も容易いものじゃて……」



 国の崩落を願う邪悪な存在……そう、彼女こそがシン・デ・レラに魔力を与えて、王国征服を企てた闇の世界の住人「魔女」



 彼女はシン・デ・レラの強欲性に目を付け、魔力を与えた。そして王子に接近させ、今回のような事態を巻き起こしたのだ。



「フフ……さあて……これでいよいよワシの時代がやってきたようじゃ……後はシン・デ・レラが王子を完全なガラス細工に変えるそのときをじっくり…………!? 」



 その時、魔女は背後にただならぬ気配を感じ取った……しかし、それを察した時には全てが手遅れだった。



「お……王子!? なぜここに!? 」



 信じられないといった表情だった。それもそのハズ。ただ今水晶のビジョンに映し出されている王子が、どういうワケか自分の背後に立って、鈍色に輝く拳銃を後頭部に押しつけていたのだから。



「やあ、魔女さん。あなたを捜すのには苦労しましたよ……」



「どういうコトだ……なぜお前がここに……? 」



「フフ……全てシン・デ・レラのおかげさ。彼女は初めからアンタの企みに気が付いて、ワザと乗ったフリをしていたのさ」



「囮になって……ワシを攪乱したということか……」



「その通り。アンタが水晶で覗いている僕の姿は影武者さ。その間にシン・デ・レラから伸び続ける魔力経路を辿ってこの場所を割り出した」



「なぜだ! 強欲なあの女が……なぜワシを売った!? あいつに正義感なぞあるはずが……」



 その言葉に王子は、大笑いしたいところをグッとこらえて話を続けた。



「簡単な話さ。彼女は地位や名誉なんかよりも大好きなのは『金』さ。単純にアンタの魔法でも生み出すことの出来ないほどの報酬を、彼女に与えたってだけさ。彼女の強欲さはどんな悪にだって蝕まれない。それが彼女の……」



「彼女の……? 」



「Shin de real (シン・デ・レアル)本当の精神だからさ」



 王子は躊躇なく引き金を引き、邪悪な魔女を亡き者にした。



 これによって、王国にたびたび被害をもたらした魔物は消え、人々は平和を取り戻した。



 そしてシン・デ・レラは多額の報酬を使って起業をし、ガラスの加工工房を立ち上げた。やがてそのブランドは一級品として世界中で高い評価を得るようになる。



 ちなみに彼女の会社は、3年後に行われたオルィンピックの公式スポンサーとなったとか……





THE END

 執筆時間【1時間57分】


 制限時間大オーバー(笑)

 でも今回は、話がまとまらずに超過したワケではなく、話が膨らみ過ぎて文章量が多くなったというカンジです。個人的にお気に入りの話になりました。

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