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No.18「ダルマパンと真っ黒ニコ顔ドーナツ」

今回のお題は



(お題)

1「買い物」「簡単なこと」

2「縁起物」「片目」

3「試作品」「ノープラン」



「おい、今から出かけるのか? 」


 僕は、長財布を小脇に抱えて外出しようとする妻を引き留めた。



「ん? そうだけど……何か? 」


「何か? じゃないよ。もう外は真っ暗だろう? 危険だ。やめておけよ」



 今日は冬至だ。日が落ちるのが早いので、まだ夕方の5時半だったが外は漆黒の暗さに覆われている。そんな時に妻一人で外に向かわせるワケにはいかなかった。



「大丈夫。すぐそこのパン屋にいくだけだから」



 妻はそんな僕の心配をよそに、さっさと靴を履いて扉を開けようとしたので、僕はさらに詰め寄って彼女の動きを制した。



「だめだ! 今朝のニュースをみただろ? 近所で起きた猟奇殺人の犯人、まだ捕まってないんだぞ? 」


「え……まぁ、そうだけど……」



 僕が妻を止める理由はそれだ。つい一ヶ月ほど前、この静かな町で惨たらしい残酷な殺人事件が起きていた。



 それは、一人の男の両手足を切断し、さらには片目まで抉りとって殺してしまうという悪魔の所業だった……



 その被害者は元々丸々と太っていた体型であったことも合わさり、あたかもダルマを思わせる状態だったという。



 そんな外道がうろついている闇夜を妻に歩かせるだなんてもってのほかだ。



 僕は半ば無理矢理に愛妻から財布を奪い取り、代わりにパン屋まで足を運ぶことに決めた。



「食パン一斤6枚切りと……何か適当な菓子パンを3つ……か」



 妻から渡されたメモの内容を読み返している内に、目当てのパン屋まであっという間にたどり着いていた。



 こんな買い物、そもそも誰にでも出来る簡単なことだ。わざわざメモに書いて渡すこともなかったのに……



 いつまでも僕に対して、子供扱いな妻に若干のいらだちを覚えつつ、僕はパン屋の暖かみのある店内へと足を踏み入れた。



「いらっしゃいませーッ! 」



 こうして僕が一人で店内に入ることは初めてだった。ついつい調子が狂って店内うろうろし続けていると、パン屋の店員がハツラツとした声で「何かお探しですか? 」僕に近寄り手を貸してくれた。



「実は……」



 僕はまず、センスを問われる菓子パンのチョイスを店員と相談した。するとその店員は自信満々に「コレなんかどうでしょう? 」と一つの楕円形のパンをオススメしてくるではないか。



「これは? 」



 そのパンは形状こそオーソドックスではあったが、イチゴを練り込んだと思われる赤色の別生地に全体の3分の2にまで覆い包まれて、ベースの白いパン生地が露出していた。


 その部分はチョコによって描かれた瞳が片方だけ……もう片方はアイシングによって作られた白目だけが付いている。



 これはどう見ても……



「ダルマ……達磨のパンですか? これは? 」



 僕が不安げにそう尋ねると、店員さんは得意げな顔で……



「その通りです! 」と答えた。



 そしてこの達磨パンはその味は当然のこととして美味である上、縁起物としての、とある店員の試みがウケて大評判なのだと言う。



「この達磨パン。本来の達磨と同じく、片目しか入れてないんですよ。だからこのパンを買って、何か目的を達成したりだとか、夢が叶ったりだとかした人には、もう片方の目を入れたバージョンの達磨パンを特別に提供することにしています」



 なるほど。それは面白いな……と素直にこの店の営業努力に感心した。受験を控えた学生達には確かにウケは良さそうだ。



 よく見ると店内の壁に掲げられているコルクボードには、両目を入れた達磨パンと共に写る若者の写真が飾られている。こういうノリが好きな方々にはたまらんのだろう。



「それじゃあ、この達磨パンを3つください」



「ハイ! ありがとうございまーす! 」



 僕は店員さんに言われるがまま、その人気商品を購入することに決めた。全くチョロい客だ、僕って人間は。



 そんな流されやすい気質の自分自身を頭の中で自虐していると、レジにてパンを袋詰めをしていた店員が、なにやら店の奥の方へと一旦姿を消し、小さな紙の小袋を手に、再度姿を現した。



「これ、試作品なんですよ! 特に考えもなくノープランで作ったモノなんで美味しいかどうかは微妙ですけど、一緒に袋に入れておきますね! もちろんサービスですよ! 」



 なるほど、試作を食べさせてその評判が良ければ店で売ろうという考えか。その向上心の高さに、僕はこの店に対して再び好印象を抱くことになった。



「ありがとうございましたー! 」


 心地よい気分で店を後にし、先ほど渡された試作品の小袋を開封することにした。



 その中には、真っ黒なチョコにコーティングされた球型のドーナツが入れられていた。



「うん、なるほどね」



 そのチョコドーナツにはにっこりスマイルな顔がアイシングによって描かれていて、見る人を楽しませる作りになっていた。



「真っ黒ニコ顔ドーナツってところか……」



 そう一人つぶやき、試作品を頬張りながら携帯端末を操作してそれとなくニュース情報を調べると、なにやら見逃せない見出しが僕の瞳孔を貫いた。



『猟奇殺人再び! 今度は黒こげの生首が!? 』



 どうやらこの町で再び猟奇的な殺人事件が起こっていたコトが分かったらしい……



 犯人は、一人の男を真っ黒焦げになるまで燃やして、その首だけを切り取って道ばたに捨てたらしい……


 全く恐ろしい……残酷な発想を思いつくその思考性と、その発想通りに人を殺めてしまう行動力は、同じ町に住む者として恐怖でしかない。


 僕は早歩きでその場から立ち去り、そのまま自宅アパートへと帰還……その時になって初めて……



 初めてその事件の死体が……



 自分が食べた試作品のドーナツと似通っていることに気が付いた。






THE END

 執筆時間【1時間14分】


 話の構想がまとまらず、過去に作った自作品の番外編的なごり押しで乗り切りました(^^;)

 今回の話の元になった話は「フォルネリア・マルコエミ」という作品です。もしよろしければそちらも読んでみてください。

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