No.15「桜ブースター」
今回のお題は
(お題)
1「きれっぱし」「無機質」
2「不本意」「旅の途中」
3「平行線」「花吹雪」
今の僕は、お菓子の箱の切れ端に時々付いている、銀の天使と同じなのだ。
金の天使ならそれ一枚で価値のある存在と言えるが、銀はそうではない。5枚集めてようやく価値が見いだせるのだ。
いつか役に立つかもしれない……と、引き出しの奥にでもしまわれて、結局そのまま存在自体を忘れさられてしまう……
たった今僕宛にメールが届いた。『もうキミは必要ない』というニュアンスの文章が無機質に液晶画面に映し出され、僕の心は激しく揺れた……
そう……もう僕は皆にとっていらない存在なのだ。
僕は一ヶ月前、仕事のスランプに陥ったことが原因で、周囲に黙って雲隠れしてしまったのだ。
多くの人に迷惑を掛けながら、僕は傷ついた心を癒す目的で、宛もなく日本中を旅することに決めた。
そして今尚、傷心旅行の途中ではあるが、それも不本意な形で幕を閉じることになった。
心の中では、僕はやっぱり誰かに必要とされたかった……
『帰ってこい』そんなメールを期待していた……でも、現実はそんなに甘くはなかった。
弱い者……使えない者は容赦なく切り捨てる勝負の世界だ……僕はやはり必要とされていなかった存在なのだ。
「良い風だな……」
空気は暖かかった。気分は最悪だったけれど、春の陽気は腹が立つくらいにさわやかだった。
そして僕は、解雇通告を受けた最悪なこの日を、もっと特別な物にしようと『ある』行動を起こす決意を固めた。
これは全てを失わない限り出来ない、勇気のある行動だ。
まず、僕は電車の踏切をから線路へと進入した。本来やってはいけないことだが、今の僕にはどうでもいいことだ。
そしてしばらくその平行線の真ん中をふらふらと歩き、決意の刻を今か今かと待ちわびる。
周囲には人気は全くなく、どこかで鳴く何かしらの鳥の鳴き声がハッキリと聞こえるほどにしずかだ。
線路の両脇には薄いピンクの花をつけた桜の木が等間隔植えられていて、メルヘンなトンネルの様相を作り出している……
これが……僕がこの世界で最後に見る光景……
しばしその風景に見とれている内に、レールが小刻みに揺れる感触を覚え、この線路上にまもなく電車が走ることを予告させた。
そう……僕はこれを待っていた……この為にここに来た……
もう失うモノは何もない……
僕はこれから……新たな世界へと旅立つのだ。
電車の先頭車両が見えた。
あと300m……
200m……
100m……
50m……
3……
2……
1……
「スタートッ!! 」
悠然と走る電車の先頭が僕の影と重なった瞬間……
一気に走り出す!
「うおおおおおおッ!!!! 」
クラウチングスタートから足を踏み込み、加速する!
一歩! また一歩!! 大きく! 深く土を蹴り走る!!
電車の風圧で両脇の桜が散り、花吹雪が舞う!
もっと! もっと早く!
併走する電車は残像となり僕の目尻に写り、体が空気の流れに吸い込まれそうになる。
そして猛スピードですれ違う桜の花びらが、あたかも自分自身が高速で走っているかのように錯覚させた。
「ハァ……ハァ……」
……数秒……あっという間の時間が過ぎ去り……後は電車が揺れる音が静かになって遠ざかる光景を見送った。
僕の一世一代の大勝負……電車との100m走は僕の惨敗で幕を閉じた。
呼吸が苦しく……肌が火照り、汗まみれになっていたが……気分はすこぶる爽快だった。
僕は、中学生の頃から100m走の公式記録をどんどん塗り替えた天才ともてはやされていた……
しかし、それもその時だけの栄光に終わったようで……体の成長、その他諸々の要因によって、僕の陸上選手としての成長は打ち止め。
世界大会の強化選手に選ばれるも、思った成果が出せずにとうとう逃げ出してしまう有様。
自分自身の存在価値が見いだせず、陸上選手としての最後は、かねてからの夢を叶えてから終わらせたいと思っていた。
それが電車との100m走だ。
そう……いくら練習したって、生身の人間はやっぱり電車には敵うワケがない……
そんなのは当たり前のことだ。でもそれを実行に移して直に思い知らせれると、どういうワケなのか妙に心が落ち着いてくる。
僕はあの桜吹雪のトンネルをくぐり……新たな人間に生まれ変わったのだ。
もう何も怖くない……
これで心おきなく……スポーツ選手としてのキャリアを終わらせることができそうだ。
でも……その前に……
迷惑掛けたみんなに、謝らなきゃな……まずはそれからだ……
彼はその後、正式に陸上競技からすっぱりと縁を切ることになる。
そしてその後、鉄道事業者としての新たな人生を歩み始め、その人生を謳歌させることになった。
THE END
執筆時間【51分】
こういう作品を書くのは多分初めて。




