No.14「土」
今回のお題は
(お題)
1「苦虫を噛み潰す」「桟橋」
2「道連れ」「下心」
3「再会」「隙間」
苦虫を噛み潰す表情で、男は重いショルダーバッグを担ぎながらゆっくりと歩く。
その男が向かう先は、足場の残された建築現場。周囲は人気が無く、月明かりにのみ照らされた金属パイプの造形物は、さながら前衛芸術を思わせる出で立ちだった。
男は足場に架けられた桟橋を登り、その檻のような格子の中央へとバッグを引きずっていく。
「ふぅ……余計な手間を掛けさせやがって……」
男は疲労で乱れた呼吸を整えつつ、一人呟いてバッグのジッパーの封印を解いた。
その中から現れたのは顔面蒼白の女性の顔。まるで生気が感じられなかったのは、男がつい数時間前に彼女の息の根を止めたからだ。
男は闇の社会に生きる人間だったが、ある日に組織の蓄えを横領していた事実がバレてしまい、その命を追っ手に狙われていたのだ。
その時、交際していた女性も道連れに逃避行を図ろうとするも、力強く拒否されてしまう。
いざとなったらその女性の身柄を売り渡そうとしていた男の下心を、彼女はめざとく感じ取っていたからだ。
そして男は女に愛想をつかれてしまったコトに腹を立てて、つい足下にあったビール瓶で彼女の頭を僕打してしまい、その命を奪ってしまっていた。
「やべえ……やっちまった……」
呼吸をしなくなった彼女の姿に冷静になった彼は、その死体の処理に困り果て、この建築現場へと足を向けたのであった。
「よし……後はコイツをあそこに放り込めば……」
死体処理に使った建築現場は、不況のあおりや諸々の事情により、建設途中のまま手つかずにされていた。それが男にとって都合がよかった。
そこには埋め立てる予定の古井戸までそのまま放置されていた。ちょうどいいとばかりに男はその中に女を放り込んだ後、鉄筋と岩を使って井戸の穴を厳重に塞いだ。
「これでよし……」
と、男はその地を後にし、彼は単独で組織の追っ手を振り切り、そのまま1年の時が過ぎた。
もう、過去の失態は全て闇の中に葬ることが出来ただろう……と安心しきっていた男だったが……ある日のことだった。
「何……嘘だろ? 」
風の噂で、例の建設現場がとうとう取り壊されることが決定されたことを知った男は、再び不安におそわれてしまう。
このままでは、あの死体が見つかってしまう……どこか別の場所に隠さなければ……
焦った男は大急ぎで建設現場まで車を走らせ、自身で封印した古井戸を一年ぶりに解放させることにした。
ゆっくり、ゆっくりと岩をどけ、鉄筋を取り去ると、その隙間から……なんと……
「うっ……うわあぁあああッ!! 」
なんと、信じられないことに「真っ白な腕」が突如彼の首に向かって伸ばされ、そのまま井戸の中へと引きずり込まれてしまっていたのだ!
「…………ようやく再会できたわね……この人殺し……」
「嘘だろ……? なんで? 」
「何? 何がおかしいの? あなたがここに連れて来たんじゃないの? 」
「なんでお前が生きてるんだよ!? 」
男は目を疑った。一緒に落としてしまった懐中電灯の光に照らされていたのは、殺したハズの女が、全身埃まみれになりながら不敵な笑みを浮かべていたのだ。
「あなたね……殴った相手をよく観察してなかったのはミスだったね……あの時、私は気絶してただけだったの」
「ちがう……そうじゃないだろ! 例えそうだったとしても……一年間もこの井戸でどうやって生きていたんだ!? 」
「フフ……私ね……あなたには話してなかったけど……ある特殊体質を持ち合わせててね……」
「特殊……? まさか? 」
男は井戸の側面の土壁が大きく穴が空いたように抉れていることに気がつき……とある可能性を見いだし、絶句した。
「そう……私ね……土を食べて栄養を摂取できるって特異体質なの……『土食症』って言うヤツのもっと凄いバージョンらしくてね……ドン引きされるから周りには黙ってたけどね……フフ……水はたれ込む雨水や染み出す地下水から摂取してね……大変だったよ……」
目の玉が頭蓋骨を突き破って飛び出しそうなほどの衝撃に、男はただただ唖然としていた……
そしてそんな男を後目に、女は足下に落ちていた鉄筋のかけらを握りしめる。その先は鋭利なアイスピックのように尖っていた。
「で……今から私があなたにすること……分かってるよね? 」
「ひ……ひ……すまん……オレが悪かった! 」
「ん……? よく聞こえないなぁ……一年間も真っ暗な中で土を食べていたせいかなぁ……」
「ごめん……ごめん……ゆ……許してくださぁぁぁぁい!! 」
「さよなら……今度はあんたが土になるの……」
その後、この手つかずの建設現場は予定通り撤去されることになり、その際、古井戸の中から一人の男の死体が発見され、世間を騒がせた。
~豆知識~
土食症は世界各地で知られており、マレーシアの一部の妊婦は、安産の為に粘土を食べる風習が残っているという。
さらに、日本でも土を食材に扱うレストランが、ごく一部ではあるが存在するらしい。
THE END
執筆時間【1時間】
今までで一番苦戦した……(^^;)
困ったときは豆知識でごまかすべし(笑)




