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No.12「行ってきます! 」

今回のお題は



(お題)

1「罰当たり」「幼年期」

2「理性」「共鳴」

3「自暴自棄」「行ってきます」



 学校の帰り道、突然大雨が降ってきた。



 靴も服もランドセルもビチョビチョになるのは嫌だったので僕は近くの公園にある、小さなドームの形をした遊具の中に避難して雨宿りをすることにした。



 僕はそこで……一生忘れられない出会いを経験する。



「やあ、キミも雨宿り? 」



「え……? あ……あの……」



 遊具の中には、僕よりも5歳くらい年上……多分高校生くらいのお姉さんが、体育座りでうずくまっていた。



「あ……ご……ごめんなさい。まさか先に人がいるだんなんて」



 僕はびっくりしてこの場から逃げだそうとしたけど、お姉さんが「ちょっと待って」と僕を引き留めた。


「いいよ……雨が止むまで一緒に待ってようよ。その間、ちょっとお話ししようか? 」



 遊具の中は暗くてお姉さんの表情はよくわからなかったけど、多分笑ってたと思う。



 その見えない笑顔に安心した僕は、お姉さんの言うとおり、ドームの中にとどまることにした。



「お姉さん……誰なの? この辺じゃ見かけないよね? 」



「そうだね……私、ちょっと遠くから来たからね……」



「何しにきたの? 」



 僕がそう尋ねると、お姉さんは少しだけ間をおいて……



「逃げてるの……私……人殺しだから……」



 そう言った。



「……冗談でしょ? 」と僕が半笑いでお姉さんに言葉を返すと、お姉さんはゆっくりと身に纏っていたコートを脱ぎ捨てた。その下には、どす黒い染みを付けたブラウスが現れた……その染みは多分……



「……それ……血なの? 」



「そう……この血はね……両親を殺したときについた返り血だよ……」


 お姉さんは淡々とそう言って、さらに話を続けた。







 私の両親はね……ちょっと嘘くさい宗教にハマってたの。だから私もその影響で、幼い頃から毎月妙な集会に連れていかれたり、白と黒の服しか着せてもらえなかったり……正直言ってうんざりだった。



 だから私、内緒でみんなが来ているような可愛い服とか着てみたり、こっそりメイクの練習をしてみたりしてて……でも、それがバレちゃって……



 罰当たりな子! 反省しなさい! って怒られてさ……クローゼットの中に押し込まれたの……



 それでそのまま……そう……丸一日ほったらかしにされてたの。



 お腹も減ったし、おしっこもずっと我慢してて、とうとう限界だった。



 だからクローゼットの中に置かれていた工具箱の道具を使って、ドアをこじ開けて外に出たの……



 そしたらさ……死んでんの……



 ママとパパ……お互いに包丁を持っててさ……血塗れになってた……


 その時ね……悲しいとか、怖いとかそんな感情が全く起きなくてさ……ああ、この後葬式とか掃除とか面倒だなって……理性的なコトしか考えられなかった……



 そしてね、両親が信じた神が下した最後がこんな結末とはね……って思った時、妙におかしくなっちゃってさ。ホント、イイ趣味をしてる神様だ。って逆に共鳴したぐらい。



 その時私さ、あんだけ嫌がってたインチキ宗教の神様の名前をつぶやきながら、何度も何度もパパとママの体に包丁を突き立てたの。



 こうだろう? これがあんたが望んだ信者の姿だろう? って頭の中で思いながら。



 そして私ね……その包丁を持ったまま、わざと人目のつく通りを歩いてさ……警察に通報させたワケ。だから私きっと……親殺しの殺人犯ってコトで指名手配されてるんだ……


 で、ここまで逃げてきたワケ。理解出来ないでしょうけど……これはね……私がしなきゃいけないことだと思ってやってるんだ……自暴自棄なんかじゃないよ……



 今の自分に……必要なコトなんだ……この行為は……







 お姉さんの話に……僕はただただ聞き入るしかなかった……相づちすら打てなかった……



 でも、何とか乾いた喉を自分の唾液で潤して、必死な思いで口を開き、お姉さんに言葉を返した。



「お姉さんは……殺人犯なんかじゃないじゃないか……すでに死んだ人間を刺しただけだよ……」



 僕がそう言うと、お姉さんは黙って僕の方へ瞳を向けた。



 真っ黒で……のぞき込んだら吸い込まれそうな瞳……でも、その中にどこか寂しげな輝きがあったようにも感じた。



「ねえキミ……」



「うん……」



 お姉さんは突然僕の体に飛びつき、押し倒してきた! 予想出来なかった出来事に、僕の体は震えた。


「お姉さん!? なにを!? 」



「フフ……」



「え? 」



「ハハハッ! 嘘だよ! 全部嘘! 私が人殺しなワケないじゃん! 」



「へ? 」



 お姉さんはさっきまでの雰囲気とはまるで違う、明るい口調でそう言って、僕の肩に腕を回してきた。



「全部嘘! このシミもね、ママの目を盗んでさ、こっそり飲もうとしたワインをこぼしちゃった時についちゃったの! だからここまで逃げて来たんだ! 」



「そ……そうなの? 」



「当たり前じゃない! 」



 お姉さんはキョトンとした顔の僕に満面の笑みを向けてきた。その後ろには、真っ赤な夕日の光が輝いていて……お姉さんの顔に濃い陰を作った。



「雨……止んだみたいだね」



「うん……」



「さてと……それじゃ行かなくちゃ……」



 お姉さんはドーム状の遊具から外へと這い出て、大きく背伸びをした。さっきまでお互いにしゃがんでいたからわからなかったけど……お姉さんの背は結構高かった。



「それじゃ、行ってくるね! ママに説教もらってくるよ」



 コートを羽織り、軽い足取りで公園を後にしようとしたお姉さんだったけど……僕は……



 僕はこのまま彼女を見送ることが出来なかった。



「お姉さん! 」



 僕は、腹のそこから声を出し、お姉さんを引き留めた。向こうは驚いた顔で振り返って僕を見た。



「お姉さん…………きっと……きっと……許してもらえると思います……だから……」



 上手く言葉を送ることが出来なく……悔しかった……こんな時……僕なら……いや、お姉さんを元気づける言葉を、僕が知っているべきだったのに……



「……キミは優しいんだね……」



「あの……その……」



「ありがとう……その気持ちだけでうれしいよ……」



「お姉さん! 」



「それじゃ……行ってきます! 」


 お姉さんはそう言い残し、ゆっくりと僕の視界から消えた……



 僕にはわかる……お姉さんは……今から警察に自首するつもりなんだろう……



 僕は気づいてしまった……お姉さんが僕に抱きついた時に見つけてしまった……手のひらが潰れた血豆だらけだったことに……腕に刻まれた無数の火傷の痕に加えて……生々しい切り傷があったことに……



 お姉さんは……日頃から虐待されてたんだ……そして、両親のどちらかに包丁で殺されかけた……だから工具を使って抵抗し、何度もその道具を強く握りしめながら叩きつけたんだろう……そうでなきゃ……あそこまで返り血を浴びることはないと思う……



 僕は……さっきまでのほんの数分の出来事を一生忘れることはないだろう……



 そして、僕がこれから何をするべきか……お姉さんは教えてくれたのかもしれない……









 少年はその帰り道、川に向かってランドセルの中に隠していたドライバーやアイスピックの類を大量に投げ捨てた。



 そして、彼が切なげに衣服の袖をめくり上げると……そこには先ほど公園で出会った女子高生と同じく、無数の火傷……火のついた煙草を押しつけられた痕があった……



 後日、少年は近くの駐在所に駆け込んで全てを告白することを決意した。



 その一件以来、彼の火傷はそれ以降増えることはなくなった。





THE END

 執筆時間【1時間20分】


 今回、執筆に取り掛かるまでに随分時間が掛かってしまった。

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