No.10「オールドルーキー・ゴンジ沢村」
今回のお題は
(お題)
1「茨の道」「寝坊」
2「最年長」「絶対なんてない」
3「限りある」「三角関係」
「おいゴンジ! いよいよ出番だぞ! アップは済ませたか? 」
控え室のベンチで静かに座り込んでいるオレに向かって、トレーナーの猫飼はうわずった声で試合前の最終確認をしてきた。
「ああ。身も心も上々よ……後はリングに上がって相手の尻をぶったたくだけだ」
「ああ……その様子なら大丈夫そうだな……」
「大丈夫だ……こんな時に怖じ気つくタマに見えるか? オレの今までの人生に比べりゃ……この程度のプレッシャー、屁でもねえぜ」
思えばオレがここまでたどり着くまでの人生は、はっきり言って茨の道だったと思う。
高校を卒業して印刷会社に勤めたが、そこは従業員を死ぬほどこき使う真っ黒体質な企業で……オレは心も体もボロボロになっちまった。
そして7年間必死に勤めてたが、とうとう心が耐えきれなくなって失踪……死に場所を求めて何週間か放浪した後、結局生きながらえて自宅に引きこもる生活を5年間も送った……
絶望だよ……もう二度と社会復帰なんて出来ないと思ってた。
でもそんな時、オレの素質を見抜いてこの世界に誘ってくれたのが、猫飼トレーナーさ。
トレーナーはこんなオレを一人の男として認めてくれ……時には厳しく、時には慈愛をもってオレを育てあげてくれた……本当に感謝している。
オレの人生はここからさ……もう35歳と、この業界では若くない年齢だが……ちょっと寝坊をしていただけさ。遅刻したが、ここでオールドルーキーとして遅咲きの花を咲かせてやる!
「いくぞゴンジ! 」
「おう! 」
オレ達は控え室を後にして入場ゲートへと向かう。大勢の客の熱気がこもった歓声が徐々に鼓膜を刺激する。
武者震いによって鼓動が高鳴り、血が湧き肉踊る死闘を今か今かと待ちわびていると、背後からぬらりと熱気を帯びた闘気を感じ取った。
「……おっさん……相手は手強いぜ……棄権したらどうだ? 」
突如現れてオレに挑発をしてきた男は、トーナメント第一試合で共に激闘を演じたライバル「ソラガキ」だった。
「余計なお世話だぜソラガキ……オレに立ちはだかる敵は、たとえブルドーザーだって道を譲らねえぜ」
「へっ……相変わらず口の減らねえオヤジだぜ……今大会最年長選手だってのに、闘志だけはヤンゲストだな」
ソラガキはそう言って含み笑いをする。口は悪いが、この業界を誰よりも愛し、対戦相手へのリスペクトを怠らない彼を嫌う者は少ない。無論それはオレ自身も同じだ。
「ほめ言葉として受け取っておくぜソラガキ」
「フン……まぁいい……それとな、ゴンジ。俺様がお前と初めて会った時……何て言ったか覚えているか? 」
「忘れるワケねえ……お前はオレにこう言った……『年食ったロートルに、この世界を生き抜くことは絶対に無理だ』ってな……」
オレの言葉にソラガキは少し気まずいような……自分自身をあざ笑うようなため息をもらしたかと思えば、うつむき加減だった顔をこちらにまっすぐ向けて清々しい瞳をこちらに向けた。
「ゴンジ……お前はこの大会……絶対に優勝しろ……そして俺様に証明してみろ! 『絶対なんてない』とな! 」
オレはその言葉に対し、無言のサムズアップで返答した。オレ達の間にはもはや、それだけで通ずる世界が出来ている。
「ゴンジ! 出番だ! 」
「おう! 」
猫飼トレーナーに背中を押されながら、オレは入場ゲートをくぐる……光に一瞬包まれたかと思ったその瞬間……形の無い巨大な風船にぶつかったかのような、とてつもない空気の圧力を感じた。
「「「ゴーンージ! ゴーンージ! ゴーンージ! 」」」
数百……いや、数千の観客達が、オレの名前を呼んで迎え入れてくれている……
陳腐な表現だが、夢のようだった……
数年前まで、真っ暗な部屋でポテチをかじりながらオンラインゲームに明け暮れていたオレが……今こうして多くの人間に歓迎されているだなんて……
「ゴンジ…………いこうぜ……! 今こそお前の力を見せつけてやるんだ! お前の存在意義を! お前の人生を! 」
「……ああ……」
オレ達は大歓声に包まれながら花道をゆっくりと歩き、決戦の舞台へと向かっていく……ここまでの経験と思い出が走馬燈のようにフラッシュバックされる……
時間には限りがある……人生ってのは「自分」と「時間」と「実績」の三角関係だ……
自分がどれだけ実績を求めようとも、時間は残酷にもどんどん過ぎ去る。しかし、時間が実績を生み出すことも確かなのだ……
オレは今、ようやくそのトライアングルに折り合いを付けられるようだ。
『赤コ~ナ~! 172cm、62kg……“ジ・オールドルーキー”ゴンジ沢村ァァァァッ! 』
リングアナがオレの名を呼ぶ……決戦の火蓋が落とされるのはもうすぐだ!
『青コ~ナ~! 192cm、92kg……“キング・オブ・キングス”マストロ銀座ァァァァッ! 』
相手は全戦無敗の絶対王者……巨大過ぎる……強すぎる相手だ……だが……オレはこの巨壁をぶち破らなければならない……
オレがオレである為に……
全てを掛けて挑み、頂点に立たせてもらう!
この究極のスポーツ……
“エクストリーム・紙相撲”で!
『ペーパーファイト! レディィィィ……GO!! 』
「うおおおおぉぉぉぉッ!! 」
「おりゃあああああああッ!! 」
『さァ! ゴングが鳴り、両者が一斉にリングをトントンします! 』
『その動きはさながら巨木を穿つキツツキのようだ! さぁ! ゴンジ沢村! トーナメント決勝にて、オールドルーキーの意地を見せるか! それとも絶対王者のマストロ! このまま盤石の王朝を築けるかっ! 』
『おお~ッと! ここでゴンジ沢村のシグネチャームーブ! 超絶難度の450TTを見せる! これはマストロ厳しいか!? 』
『いや……ここは耐えた! さすがは絶対王者! キング・オブ・キングス! さあ、ゴンジ沢村の全霊の技を受けきり、ここで……ああーッと! でたぁぁぁぁッ! 最強無敵の絶対奥義……ボルケーノ・ハンマーだああああッ! これでゴンジ万事休すかァァッ! 』
『いや! ……なんと……信じられません! かわしました! 回避しました! ゴンジ沢村! 王者の動きを読んでいましたァァァァッ! すごい! なんという名勝負でしょう! エクストリーム紙相撲に、新たな歴史を刻む、今その瞬間を私たちは目撃しています! 』
『さぁ……両者お互いに距離を取り合い……最後のムーブをぶつけあう! さぁ! 勝者は誰だ! 最後に微笑むのは、一体どっちなのかァァァァッ!!!! ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
THE END
執筆時間【1時間6分】
とうとう10作目! まだまだイケる!




