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『僕と友達になってくれませんか?』
そんなメッセージが届いたのは、何でもない真夏の昼下がりのことだった。
何でそんなメッセージが来たのかと言われれば、差し当たって心当たりが無い……訳でもない。
最近始めたSNSで、あるバンドを好きな人達が集まるグループアカウントにフォローした記憶がある。きっとそこで俺のプロフィールを見た誰かがメッセージを送ってきたのであろう。
「……悪戯か?」
何時何処でも誰とでもすぐ友達になれてしまう時代だからこそ見極める力が試される。これが釣りだったら俺は心の扉を更に頑丈に閉ざし、挙句南京錠まで掛けざるを得ない。そしたらもう此処から外に出ることは一生無いかもしれない。
現に俺は今、現実逃避し引き籠っている真っ只中なのだから。
「……どうするか」
悩みあぐねる。が、どうせこうしていても話し相手も居ないのだし、これが釣りだったところで俺が外に出ることはまず有り得ないのだから途中で裏切られても傷付いたりしないだろうと安直に思い至る。そもそも俺が信用しなければ良いだけの話だ。
「目の前に居るわけじゃないんだしな」
独り言ちて返信する。するとすぐに返事が来た。
『承認ありがとうございます! 【毛糸】さんとは趣味が似ていたので気が合いそうだと思いメッセージを送りました! 突然で警戒されてるかもしれませんが僕も男なので出会い系とかお金目的ではありませんから安心して下さい!』
どうやら此方の思惑は筒抜けだったようだ。しかし、今送られてきたコメントが本当ならば俺はなんて小さい男なんだろうと思ってしまう。……いや、これが向こうの戦略なのかっ?!
「こんな初期段階で相手の手の内に嵌るところだった……!」
危うく信用しかけた自分に叱咤する。最初に信用しないと決めたばかりだったのに。
「……所詮人間なんて、信じるに値しないものなんだから……」
抑えていた感情が湧き上がり、知らぬ間に携帯を握る手に力が入る。じとっと僅かに湿った手が酷く気持ち悪い。
ピコンッ
「……次は何だよ」
俺が返す前に続けて送ってくる相手に少しばかり煩わしさが生まれる。が、内容が気になってしまい無視することは出来なかった。
『【毛糸】さんはどうして【ライナ】を好きになったんですか?』
相手は深く考慮するわけもなくその質問を頭に浮かべたことだろう。その純粋な問い掛けが、俺を過去に引き摺り込み苦悶させるとも知らずに。