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魔女と出会った日  作者: 鮫島 陸
Очи чёрные 黒い瞳
6/25

Очи чёрные 1

歌姫は、髪を二つにまとめていた。揺らめく炎に当てられて、妖艶とも言える美しさを放つ、繊細な黒い髪をしていた。それでいて、同じく漆黒の質素なドレスに包まれたその身は華奢だった。ただ華奢なのではなく、自分達と同じ年頃なのだろうと察しがつく。

ふと、陰になっていた彼女の横顔を捉えた。わずかな間だったが、端正な顔立ちであることが窺えた。高すぎない鼻に、紅い唇。鏡合わせのように対称的だった。

そして、歌劇のようにも見えたそれの中で見せた瞳は、酷く物憂げだった。それは美しく、悲しげで、魅力的かつ、何かを思い出させる。灰で煤けた遠い日の記憶が、その黒い瞳の中にある気がした。

「オチ・チョールヌイ。彼女にぴったりでしょう」

オチ・チョールヌイ、それは確か。

「…黒い瞳、ですか?」

「ダー、よくご存じで」

そう言って、男は空いていた席を勧める。木製の大きな丸机を囲む椅子だ。机の上にはキャンドルが立てられており、時折揺らめく炎が、この小さな歌劇場を時のない空間へと演出していた。

「お詳しいんですね」

「え?」

すると男は、巻いてルースィキとだけ発音する。

「いえ、私はただ、友人と話をしていただけですよ」

「友人!貴族のご子息とか」

ローゼンクロイツの魔術士は兵士であるが、それ以上に外交官としての役割が強い。そうなるのも無理はないと思いつつ、やや興奮気味な男に、スバルは否定の言葉を発する。

「まさか。私も彼も、当時はただの孤児でしたから」

「そう、でしたか」

落ち着いたトーンで、彼は頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

「よしてください!」

半ば反射的なものだった。

「だって…」

ーだって、何かを失ったことのない人などいないのだから。

そして、拍手が上がった。

ピアノの伴奏も、いつの間にか止んでいた。どうやら黒い歌姫の歌劇は、これが終わりだったらしい。拍手の雨音がフェードアウトしていったところで、歌姫はこちらを向く。

「そうでしょう? だってあなたたちも、失うことを知っているはずだもの」

ふと、隣の白い少女が目に入った。

彼女は、黒い瞳に肩を震わせていた。

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