あの日から続く世界 2
薔薇十字友愛団。ローゼンクロイツと呼ばれるそれは、もとを辿れば1378年にまで遡るとされる。創始者クリスチャン・ローゼンクロイツがその年に生まれ、そしてその後、これを組織した。「古代の叡智を駆使して世界を変革し、人々を救うこと」を目的としたと言われている。
しかし1869年現在では、少々意味が異なってくる。
それは1815年、かのナポレオンがとうとう敗れた年。現在魔獣と呼ばれる、巨大な獣達が突如として出現した。それは旧来の生物と酷似していたが、その巨体さが、別の何かであることを物語っていた。また非常に獰猛であり、家畜を喰らい尽くすだけでなく、人にも害を与えた。そのため各国は害獣指定し、駆除に取り掛かったが、それは熾烈を極めた。そこで登場したのが、ローゼンクロイツであった。彼らは魔獣の頑強さに対して非常に有効である、魔道具という武器を用いて欧州各地に蔓延る魔獣群を駆逐していった。その時の拠点とされた城壁都市ローテンブルグ・オプ・デア・タウバーこそが、今の薔薇十字特別自治区である。これは北ドイツを中心として各国の復興の礎を築き、国家と同等の権限を認められたのだった。その際相互的な援助を確約したのが、大国プロイセンであった。
「まず、この度の輸送作戦支援につきまして、感謝の言葉を述べさせていただきます」
そう言ったのは、髭を蓄えたいかにもな老紳士。だがその頭部にはプロイセン式鉄兜が乗っかっていた。
「いえこちらこそ、プロイセン国鉄の付与を始め、様々な軍事的経済的提携の数々、あれがなければ我々の道も荊のそれでした」
「薔薇だけに、かね?」
煙管を取り上げられ、お口がお留守になった先生がさも嬉しそうに言う。
「なるほど、さすが薔薇十字の魔術士殿。その若さで洒落のセンスが光っておりますな」
はっはっはと笑う。横にいる銀髪の少女がぽかんとしている中、先生と老紳士はとてもとても楽しそうであった。遊ばれている少年スバル・ユンツトとすれば、看過できるものでもなかった。
ところで、と切り出す。
「鉄血宰相殿! 次の仕事はないんですか!?」
違うこう言うつもりじゃなかった。これじゃあただの仕事の虫じゃないか。
客観的に描写するならば、スバル・ユンツトは冷や汗を止めることができなかった。