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魔女と出会った日  作者: 鮫島 陸
Buddenbrooks ブッデンブローク家の人々
19/25

Buddenbrooks 4

とことこと私のところへやってくる人影があった。黒く艶やかな髪を、横で二つに結った女の子。

「ハクア、終わったのね。一人?」

「うん。大使の人と話すって」

そう、とヴェーラは声を漏らした。

「待ち合わせとか大丈夫?」

「六時にホルステン門ってことになってる」

「駅から来るときに潜った、あの赤煉瓦のやつ?」

「たぶんそう」

「そっか。ありがとう」

それだけ言うと、沈黙が二人のもとへ訪れた。

「気分、良くないの?」

しばらくしてから、ヴェーラが心配そうにこちらを覗き込んできた。

「だいぶ良くはなったよ」

その答えは、多分正しいものじゃない。

「そう。でも、そうね…どこか休める場所があるといいんだけど」

それを聞いたハクアには、一つの大きな尖塔が目に留まった。ヴェーラの視線も、また同じ場所に留まったようだ。

「教会だわ。あそこで休ませてもらいましょう」

スバルが言っていた。この街は神聖ローマ帝国に忠誠を誓う都市であったと。その後神聖ローマ帝国が解体されたとは言え、プロイセン・オーストリア冷戦を経てこの土地を占有したローゼンクロイツへのカトリック教会の心象は、決して良いものではないだろう。それに、ローゼンクロイツの起源を辿れば、それは反カトリック的情勢に端を発して成立したものだ。その証拠にか薔薇十字は正教式の十字の切り方を採用していて、両者の関係が良好とは言えなかった。だから今は、彼らなりの博愛の形を信頼するしかない。

「敵は同じなのにね」

ヴェーラが呟いて、それからこちらに目をやった。どうやら思考を読まれてしまったらしい。

「でも大丈夫よ。困ったときはお互い様ってやつ」

「…ふふっ」

「ちょっと、何でここで笑うのよ」

「いや、なんか、ヴェーラっぽくないなって」

それを聞いてヴェーラは不服そうに頬を膨らませる。

「私っぽくないって…いいじゃない別に、たまにはいいこと言ったって」

「いやごめん、そういうことじゃなくって。ていうか、もしかして気にしてるの?」

ヴェーラの眉が、ぴくりと釣り上がる。これはと思い、ちょっと腰を曲げて、閉じた手で口を覆ってみた。

「そうなんだ、気にしてたんだぁ」

「気にしてないったら!」

「ん、もうヴェーラかわいいー!」

するとヴェーラは呆れた様に大きなため息を吐き、もう元気そうみたいだし別の場所にすると提案してきた。もっともそれは、ただの話題逸らしに過ぎないが。

「ううん。教会にしようよ。ていうか、何逃げてるんですかぁー」

「…あなた、実はかなりめんどくさい子なんじゃないのかしら。どういう縁かは分からないけど、きっと昔もこんな感じだったんでしょうね」

そっか、やっぱり私たちはどこかで会っているんだ。そんな気がした。

「うん。そうだよ、きっと」

「そうね。さあ、行きましょう」

ヴェーラはくるりと踵を返して、一人で歩き始めた。振り向き際に、そうだといいなと呟いて。

「何笑ってるのよ。行くわよー」

「うん」

私たちの過去に何があったのかは、まだ分からない。でも私たちは、きっと幸せだ。

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