Очи чёрные 9
ベルリン中央駅に、列車が滑り込んできた。客員輸送用の大型車と、吐き出す黒煙には、やはり迫力があった。機関車が休憩だという代わりか、一名のプロイセン将校と私達三人が動いた。私達が列車に乗り込むと、将校は昨夜ランプを持っていた右手で綺麗な敬礼を送る。私達はそれを交わした。その手を下ろすと、カーバー中尉もそうした。すると彼はホームを見やり、胸ポケットから紙とペンを取り出す。
「それは」
「選別、ですかね。大したものではなくて申し訳ないですが」
彼は美しい字を流れる様に綴って、それをこちらに渡した。
「それでは、また。ユンツト少佐。ヴァイス中尉。それと…」
その目は、黒髪の少女に向けられる。
「私はローゼンクロイツの人間じゃないわ」
「非礼にあたるかと思いまして」
するとしばらくして、彼女はため息を吐いた。どうやら、観念したらしい。
「ヴェーラよ」
するとその名を聞いてか、彼は少し驚いた顔をした。しかしそれをすぐに隠した。
「ヴェーラ、さん…。あなたにも幸運を」
ええ、ありがとう。そう彼女が言ったのを見計らってか、汽笛が大きく轟いた。ゆっくりと車輪を回す。彼女は落ち着かない様子で、ホームを見つめた。次第に黒煙が充満し、列車は速度を上げた。彼の敬礼が、どんどんと小さくなっていく。
ベルリン中央駅の外観が見えるまで、私はずっと外を見ていた。ヴェーラもそうだった。結局、ホームにあの男主人の姿は見られなかった。彼女はまだ、物憂げに車窓を眺める。
いいのかい。あの女医の言葉を、煙の匂いが充満するホームで反芻した。答えなど、私には分からない。黒煙の残り香を肺に含んで、男は踵を返した。リューベックでの事は彼女に一任してある。あの女医は少女に理解があるし、なにより負い目があった。護るということは、自分の鳥籠の中で飼いならすことではない。そう言ったのは、あの男だ。
そのスラヴ人は、ベルリンの路地に入る。




