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魔女と出会った日  作者: 鮫島 陸
Очи чёрные 黒い瞳
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Очи чёрные 8

黒髪の少女のうわごとは、私を動揺させるのには十分であったが、彼女自身の記憶を呼び覚ますには不十分であった。

結局、シューマン通りはドイツ座に差し掛かろうとしたところで、茶髪のプロイセン兵士と落ち合った。彼は左手に持っていたランプを下ろしてこちらに敬礼を向ける。来賓扱いであることを忘れていた。

灯りがないとは言え、街は寝静まっていた。大通りを抜けて行ったからかもしれない。堂々と道を辿り、プロイセン側から提供された宿所を目指す。荷物は後で彼らが届けてくれるそうだ。

「どうもありがとうございます」

「いえ、いいんですよ。むしろ、これくらいで恩を返した気にもなれません」

若い兵士はそう言った。

「ベルリン三月革命って、ご存知ですか?」

「ええ。ドイツにおける、1848年の」

「まだ物心ついて間もない頃でした」

彼は視線を上に向けた。チリチリと燃える炎が、彼の首元を照らす。

「自分は、あの革命の中にいました。父がいわゆる革命戦士だったもので、革命の火が燻る度、連れて行かれました。あの日もそうだったんです」

税負担による政治社会的不安。そして何より、魔獣の存在による生存権の危機。それらによって、抑圧的な雰囲気が醸成されたと聞いている。

「革命の火は、内に向かいました。敵の顎ではなく、味方の心臓に」

彼は、空いている左手で自身の左胸をたたいた。

「個の生存にとっては有効かもしれませんが、種として正しいことではない。それを救ってくれたのが、ローゼンクロイツだったんです」

炎の揺らめく彼の瞳は、少年のように純粋な輝きを放っていた。

「二発の銃声でした。時の国王が出した改革勅令も、それで塗り替えられてしまった。怒号と悲鳴は続き、いくつもの命が失われてしまった。自分も、そうなるはずだったんです」

何かを失ったことのない人などいない。そう言ったヴェーラの表情を思い出す。

「はっきりと思い出せます。焦げ落ちた屋根が。自分は、何も出来ませんでした。それを、あなた方ローゼンクロイツの、そのコートを纏った男が、抱きかかえて助けてくれたんです」

そう。ちょうど、あなたのような綺麗な金髪の方でした。スバルの方を見て、彼はそう言った。

「彼は自分の安否を聞くと、すぐに行ってしまいました。彼は、武器になりそうなものは一切持っていなかったんです。でも、そのすぐ後で、銃声は止みました。怒号も悲鳴も」

ふと、翻るプロイセン国旗を見た。

「その場にいる誰もが、ローゼンクロイツの登場を喜びました。愚かだったかもしれないが、無駄ではなかった。そう思ったはずです」

沈黙に浸ってから、彼は言った。

「あの革命は失敗だったと言われていますが、自分はそうは思いません」

あれは、人類再興の原点です。ココアブラウンの瞳に希望を灯した彼の姿が、私の脳裏に焼きついた。


「ここです」

案内は終わった。夢から覚める。歪ながら腕を伸ばし、右手を側頭部につけた。

「感謝します。ええと」

「カーバー・フリッツ。中尉であります」

彼は、カーバー・フリッツ中尉もまた、同じことをした。夢は、遠くで背景になった。

「ありがとうございます、カーバー・フリッツ中尉」

「いえ。これも人類再興の一環ですから」

そう言ってカーバーは笑った。

「お名前、伺っても」

そうだ。名乗っていなかった。

「スバル・ローゼ・フォン・ユンツト、ローゼンクロイツの魔術士です。彼女はハクア・ローゼ・ヴァイス。彼女が中尉で私が少佐です」

そうして、互いに手を組みあった。

「なんだか、格好つきませんね」

私の背中に目をやって、カーバーはそう笑った。

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