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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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対称

 何かあったときに戦うのは野乃花ということになっているにしても、最近は治安の良いところなど存在しない、取り締まりもない状況だというのに海人はあまりにも呑気だった。平和な現代を散歩しているのと変わらないような態度で、和輝もまた笑顔で話している。少しばかり和輝の笑顔が引き攣っていることには、誰よりも和輝を見ていた海人でなければ気が付かなかったことだろう。

「それは、思っていた以上にぶっ飛んだ設定だね。そっか。いろいろなエンディングがあって、すごく盛りだくさんなゲームだったんだ。それじゃあ、今の僕たちから見る僕たちの未来と一緒じゃないか」

 無理に笑う和輝の姿なんて見たくなかった海人は、すっかり俯いてしまっていた。泣きそうな笑顔を隣で見ることがどれだけ悲しいかを海人は経験しているところだから、彼は笑顔を浮かべることなく呟いた。野乃花のことを完全に信頼しきっているからなのか、周囲への警戒や恐怖心のない海人は呑気そのものであったが、さすがにここで笑えるほどではなかったのだ。

「海人と俺のセンスは似てるところあるからさ、プレイしたら絶対に笑えるし泣けると思うんだよね。ぶっ飛んでると思うじゃん。でも意外と王道なところもあるんだ。キャラクターも魅力的だしさ、感情移入しちゃうような要素も多いよ」

「その設定でどんなストーリーを入れたら王道になるんだよ。気になるな。日良様や他の皆と離れ離れになるのは嫌だけれど、そんなにオススメのゲームだったら僕もプレイしたいな。もし、もしだけど、もしも僕たちの世界に帰る手段があったら、か……僕はどうするのかな」

 和輝に尋ねようとして、震える声で海人は逃げてしまった。海人が日良を大切に想う気持ちは彼自身も言っているように嘘ではないけれど、それでも海人は和輝が咲希を想う気持ちを試すような形になるのが怖くて、つい逃げてしまったのだった。

「異世界まで追い駆けてくるような親友は、絶対に一緒にいてくれるだろ。海人は俺と同じ選択をしてくれると信じている。だからこそ、俺は海人の分まで背負って選択をしたいとも思っている。これは自惚れじゃないだろ?」

 責任を負う覚悟まで和輝は瞳に宿していた。和輝も自分の中にある不安が見えているから、意図的にわざわざ自信家な言葉を選んだのかもしれないが、それもまた彼の決意の表れではあったのだろう。

「だね。確かにどんな選択だったとしても、僕は着いて行くよ。一人は寂しいからね」

 自らが背負っているものの重さを自覚してしまったからなのか、自分のことで頭がいっぱいで必死になっていた和輝は、ここで海人の言葉選びに違和感を覚えることもなかった。会話の中で海人は明らかに避けている言葉があって、そのあからさまな言い方に海人の口は自嘲で歪んでしまっていたが、それにも和輝が気付くことはなかった。

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