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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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日良の城

 引き籠っていることが多く、外に出るなら出るで護衛に囲まれて守られていた日良は知らなかった。日良の城に移ってからは、さすがの咲希もむやみやたらに外出することはなかったものだから、知らなかった。賊がそうも近くにいるとは知らなかったのだ。

「お迎えにあがることが出来ず、申し訳ございません。しかし咲希様、何があったのでしょうか。日良様はいかがなさったのですか?」

 騒ぎに人が集まり大きな騒ぎとなっていたところで、やっと兵たちが到着した。

「賊が現れたのだ。もう城に着いてからのことだったから、完全に油断した。金を持っている可能性の高い、城に出入りする人間を狙った犯行だろう。こういうことは多いのか?」

 怪我はしていない、気を失っているだけだということを伝えて、咲希は日良を駆け付けた兵に任せる。良くないことばかりが起こっているというようなことを感じながら、不安と不吉な思いで咲希は歩いていく。誰もいない、彼女の想いが向かう先もない。

 敗北や屈服を強く憎み、嫌い、いつだって強くあり続けることを願う咲希らしくもないことだ。さすがに心細さというものがあったのだろうか。彼女は寂しさの中で、ただ大切な人と一緒にいられる幸せというものを考えていた。それは例え林太に支配される中でも、今の咲希ならば受け入れてしまいそうなくらいに弱っていたのだ。

「さすがに多くはないかと思います。少しずつ、少しずつ近付いてきたようなことではありませんか? 城下の治安の悪化を取り締まれなかった我々の責任です。日良様をこのような目に遭わせてしまうとは……」

 どのような状況であっても咲希は明るい人であった。これほどの孤独を感じることは初めてであった。ここだって咲希の城ということにはなっているけれど、日良の城であることは変わりないのだし、仕えている人たちだって主は日良であるところから変わっていない。名前だけ咲希に変わっても、それで全て変わるはずはない。それどころか、何かが変わるはずもないというものだ。

 昔から咲希に着いて来てくれている人の多くが今はいない。いつだってすぐ近くにいた一葉と深雪がいない。ここ最近は離れることがなかった和輝がいない。咲希に仕えていた軍隊はほとんどが壊滅してしまった。民は元の城に置き去りで、咲希に着いて移り住んだ人などどれほどいることか。咲希の仲間という仲間は、本当に今となってはほとんどいないのである。

 将も、兵も、民も、皆どれも日良に仕える人々。話をしているうちに日良がそう悪い人ではないのだと思ってしまったから、嫌でも思わされてしまっていたから、だからこそであった。ずっと何か裏でもあるのだろうと勘繰っていた日良が、本当に親切心と心優しさと臆病さで動いているのだということを知ってしまったから、それを見ていた人たちに慕われないはずがない。暴こうとしていた裏がないことを知ったのだ、それは咲希の心を傷付けたことだろう。

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