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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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 どうにか日良が普段のような作り笑顔を取り戻そうとしていたところで、力一杯咲希が日良を突き飛ばす。そのまま日良は地面に倒れて右腕に大きな擦り傷と右頬に小さな切り傷を作ってしまう。

 けれど痛みよりも驚きで日良の心は満たされている。体を反転させて状況が見えるようにはするが、日良はその光景への恐怖で立ち上がれなくなってしまった。左手で体を支えてぺったりと座り込んだまま、自分を囲む武器を持った数人の男たちを見る。

「ゆっくり話をしていたかったところなんだがな」

 まずは日良が襲われたり捕らわれたりする可能性を下げなければならないと、咲希は日良の後ろにいる男たちを斬り倒す。返り血を浴びるのも構わず、首を狙って確実に殺しに行く。一人、一人、また一人、姫とは思えない身のこなしで咲希は次々に剣を振る。

 明らかに使える足手纏いと読んでか、正面から日良を狙って伸ばした男の手を、容赦も迷いもなく咲希は斬り捨てる。日良の目の前に手首が落ちて、大量の血が溢れて注ぐ。それからも咲希の動きは止まらなかった。

「咲希様、ごめんなさい」

 震える日良の声に、咲希の強さのあまり逃げ出そうとしていた二人の男の動きが止まった。少し相談をして、一人は跪き一人は逃げ出した。

「まさか姫様がいらっしゃるとは知らず、無礼をお詫び致します」

 逃げていく人を追うようなことはなく、武器を捨てた人を攻撃するようなこともなく、咲希は剣を拭いて鞘にしまう。

「姫を襲ったからという理由で咎めるようなことはない。安心しろ。相手がだれであっても、襲った時点で罪人だ。領内で働く賊を直接討伐する機会をありがとう」

 そう告げはするものの、咲希はもう剣を握る様子もない。信用しきれないのか背中を向けることはないけれど、咲希としては眼中にもないようだった。日良を助け起こしてさっさと歩き去ろうとしてしまっている。

「お詫びの品を差し上げたいので、少々お待ちいただくことは」

「どうせそれも盗品だろう? これに懲りたらもう二度とこのようなことはするな」

 咲希はすぐにでもこの場を離れたいようだが、日良が上手く歩けない。基本的に戦場を見ない人であるから、日良にしてみれば相当ショックの大きいことだったのだろう。青白い顔でふらふらと歩く日良を連れるのは大変で、だからといっていくら日良が痩せていて咲希が剛力であるにしても、小柄な少女に大人の男性を背負うことは難しい。

「うぅ、吐きそうです」

 咲希の手を失うと、日良の体は力を失い倒れ込んだ。本人は小さな怪我しかしていないのだが、返り血で血まみれのまま日良は気絶してしまう。これでは動こうにも動けなくて、咲希は困ったように日良の体を眺めていた。


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