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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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主の不安

 日良の城に戻って、咲希と日良は話し合っていた。

「まずは仲間を呼び戻すことだな。すぐに帰って来るだろうってことだが、もしかしたら何かあるかもしれない。大人しく助けられるような奴らではないにしろ、単独敵陣でほったらかしとはしてられないだろ?」

 咲希の言葉に、日良は俯く。それぞれ傍に着いていた人を送り出してしまっているのだし、冷静に考えてみれば、野乃花や海人に無事でいられるはずのないようなことをさせているのだ。

「だれがどこにいて、今何をしているのか、あまりに情報がありません。野乃花がどこかで無事でいるというのは聞きましたが、それが今でもそうであるかは不明です」

「深雪は絶対に大丈夫だろうと思う。不安なのは、心配なのは、やはり一葉だ。どこにいるのかも、そもそもどうしていないのかも……」

 二人は当たり前にいた人たちの名を上げて、少なくとも自分の知っている限りでの現状を告げた。海人のことは、和輝のことは、二人とも頭に残して口には出さなかった。

「すみません。きちんと動きを探っていれば、掴めたであろう情報です。それに、本来であれば私は……相談を受けてもいい立場にありました。信用がなかったのでしょうね。私は雄大様に確認まで取ったというのに、いつの間に雄大様は旗を替え、いつの間に一葉様はいなくなってしまわれたのでしょう。私なら、私なら……っ!」

 感情的になっている日良の手を咲希が取れば、息を呑んで言葉を呑んで、すっかり黙り込んでしまった。日良はどんなに悲しそうな顔をしていても笑おうとしていたというのに、遂には日良は目に溜まった涙を溢れさせてしまっていた。

「少し待ってください、すみません、すみません」

 咲希に背中を向けて、隠れて日良は涙を拭った。本人もどうしてなのか、どうしたらいいのか、どうなっているのかわかっていなかった。悲しくもないのに、苦しくもないのに、辛くもないのに、涙だけが零れていた。

「臆病者、なぜ完璧であろうとする。謝らなくても構わないから、話を続けよう。隠さなくても構わないから、話を聞いてくれ」

 戸惑うほどの男らしさで、妙にかっこよく咲希が言うものだから、日良だってそれに応えたいと思った。意志としてはそう思っているはずなのに、涙も止まらないし振り向けないのだった。

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