帰路
「早く行ってよ。深雪の取引が無駄になったらどうすんの?」
あくまでも冷酷な深雪の笑顔は、これから一時的にでも主と仰ぎ、そうあるからには尽くすつもりである相手のことを、今から意識しているというように言えた。
「ああ、出て行けよ。今のうちに出て行ってしまわなければ、気が変わって全員を閉じ込めてしまうかもしれない」
わざと、林太もそんな言い方をする。そんなように言われてしまっては、出て行かないというわけにはいかない。振り向かせてももらえず、和輝と海人と野乃花は林太の元を後にした。
「ノン、ちょっと離れた場所歩いてますね。一緒にいたくありませんし、ノンは強い方ではありませんし、戦える方ではありませんが、この中では唯一戦えるのがノンというわけではありませんか」
言葉は本心でありながら、これは気を遣ってのことというのもあるのだろう。すっと野乃花は二人の傍を離れて、警戒した様子で周囲を見回している。
「こんなところで、二人でお話することになるとは思っていなかったね」
和輝と海人が暮らしていた現代の世界では、見ることがなかったような何もない場所。建物なんて見当たらない。二人が住んでいたのは都心ではないけれど、三四階建てくらいならば普通に建っていたし、そういうものに見慣れていた。
「去年、一緒に星を見たことを覚えている? ゲームで見たんだかアニメで見たんだか知らないけど、いつか、星を見に行こうっていきなり誘ってくれたよね。星空に吸い込まれて、気付いたら異世界に、なんてことを言い出したんだっけね。それから二カ月、本当に異世界に行ってしまったというわけか。そしてそれに遅れて僕もこちらへ」
「そりゃ覚えているけど、どうしたの? やっぱり海人は怒ってる?」
「ううん、怒っていないよ。こうして異世界でも一緒にいられているのだし、あの星を、日良様を始めとする素敵な人と出会えたこの世界へと繋げてくれるあの星空を、僕にも見せてくれたんだもん。僕ね、本当に日良様が素晴らしい人だって思っているからさ」
「それじゃあ、どうして今そんなことを言い出したの? そんな悲しそうな顔までして……」
「見付けたんだよ。あの星を、こっちの世界でも見つけたの。だからこそ僕は、あの星空がこの世界に繋げてくれたんだと信じている。言おうって思っていたんだけど、僕は結末を知らないから、言い出せなかった。綺麗な星空に吸い込まれて気付いたら異世界に行ってしまって、その作品はどんなエンディングへと向かっていたの?」
海人の言葉に、最後の海人の質問に、和輝は視線を落とす。




