表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
80/85

帰路

「早く行ってよ。深雪の取引が無駄になったらどうすんの?」

 あくまでも冷酷な深雪の笑顔は、これから一時的にでも主と仰ぎ、そうあるからには尽くすつもりである相手のことを、今から意識しているというように言えた。

「ああ、出て行けよ。今のうちに出て行ってしまわなければ、気が変わって全員を閉じ込めてしまうかもしれない」

 わざと、林太もそんな言い方をする。そんなように言われてしまっては、出て行かないというわけにはいかない。振り向かせてももらえず、和輝と海人と野乃花は林太の元を後にした。

「ノン、ちょっと離れた場所歩いてますね。一緒にいたくありませんし、ノンは強い方ではありませんし、戦える方ではありませんが、この中では唯一戦えるのがノンというわけではありませんか」

 言葉は本心でありながら、これは気を遣ってのことというのもあるのだろう。すっと野乃花は二人の傍を離れて、警戒した様子で周囲を見回している。

「こんなところで、二人でお話することになるとは思っていなかったね」

 和輝と海人が暮らしていた現代の世界では、見ることがなかったような何もない場所。建物なんて見当たらない。二人が住んでいたのは都心ではないけれど、三四階建てくらいならば普通に建っていたし、そういうものに見慣れていた。

「去年、一緒に星を見たことを覚えている? ゲームで見たんだかアニメで見たんだか知らないけど、いつか、星を見に行こうっていきなり誘ってくれたよね。星空に吸い込まれて、気付いたら異世界に、なんてことを言い出したんだっけね。それから二カ月、本当に異世界に行ってしまったというわけか。そしてそれに遅れて僕もこちらへ」

「そりゃ覚えているけど、どうしたの? やっぱり海人は怒ってる?」

「ううん、怒っていないよ。こうして異世界でも一緒にいられているのだし、あの星を、日良様を始めとする素敵な人と出会えたこの世界へと繋げてくれるあの星空を、僕にも見せてくれたんだもん。僕ね、本当に日良様が素晴らしい人だって思っているからさ」

「それじゃあ、どうして今そんなことを言い出したの? そんな悲しそうな顔までして……」

「見付けたんだよ。あの星を、こっちの世界でも見つけたの。だからこそ僕は、あの星空がこの世界に繋げてくれたんだと信じている。言おうって思っていたんだけど、僕は結末を知らないから、言い出せなかった。綺麗な星空に吸い込まれて気付いたら異世界に行ってしまって、その作品はどんなエンディングへと向かっていたの?」

 海人の言葉に、最後の海人の質問に、和輝は視線を落とす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ