揺れる強さ
「殺せ殺せ、そして殺すな! 死ぬ気で戦え、そして絶対に死んでくれるな! それが我らの戦いよ!!」
一貫して、雄大は一人の物真似をしていた。それが誰であるかは一葉は理解していなかったが、文言は聞いたことがあった。そして川上軍でも有名な文言であり、その言葉を言っている小森軍の猛将のことも知っていた。ただ一つ、顔を知っている人はこの部隊にいなかった。
ますます旗は信憑性を持ち、裏切りの奇襲を知るのだ。信じ込むのだ。これは雄大も知らなかった情報であるのだが、偶然、最近好き勝手している林太を川上家が良く思っていなかった。そういったことも組み合わさって、この奇襲はかなり真実味を帯びていたのだ。
「このまま駆け抜けましょうか! あまり兵を減らすわけにはいきませんし、もう十分でもありましょう! 何も敵を蹴散らそうと思って来たのではありませんからね!」
一葉の声に、雄大も頷き返す。
「行けよ行け! 走れぇぇええええええええ!!!!」
もう十分に驚いていた一葉も更に驚くほどに、剣を掲げて雄大は叫んだ。彼の指揮は完璧であるようなものであったが、それでも所詮物真似でしかないのだから、強そうな影は纏うもやはり雄大は戦わない。相手を完全に思い込ませても、全て知っている一葉まで騙し込んでも、彼自身が勘違いをするようなことはなかった。
誇りを持って自分を捨てられ、自分の弱いところを認められるところが、誰よりも強い雄大を作っている要素なのだろう。一度も他の剣と交わることのない彼の剣に率いられて、強大な軍隊が通り抜けていく。強く、速く、圧倒していく。
「そろそろ限界というところでしょう。さあ、急ぎましょうか!」
急激に雄大は雄大に戻って、怯えに満ちた表情で一葉を見る。戦争を極力避け続けている雄大には、どうしたって目の前での戦闘は恐ろしいのだろう。当然だ。不意に見えた雄大の雄大らしい姿に、一葉は力強く笑顔を浮かべた。
「守りますよ。これだけ手伝われて、これだけ任せきりなんですから、せめて守ってやりますよ!」
一途さを失い始めている一葉の剣は、咲希の為だけに振るわれていた頃よりも、心なしか強くなっているようだった。修練で腕を上げたということだけではなくて、彼女の気持ちの問題としてそれはきっと彼女を強くしていた。
「頼もしいです!」
彼は怯えの残る笑顔で告げた。




