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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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本来の目的

 パンパンと海人が手を叩いた。そうすると、すぐに扉をノックする音が響く。

「何かご用ですか」

 許可を出すような声がある前に、不機嫌な様子で部屋に入って来た野乃花は、サッと海人のすぐ隣まで歩み寄る。走った訳ではない、それどころか急いでいるようにすら見えないというのに、部屋に入るところを見ていながらいつの間にか隣にいるところが見られてしまうというのだから、不思議なものだ。

「その合図、気軽に真似するものではありません。ノンが従うのは相手が日良様だからです。お呼びのようでしたから参りましたけれど、次そんな身の程知らずなことをするようなことがありましたら、……覚悟しておくのですよ」

 睨み付けていかにも野乃花は心から何か不快に思っているようだった。殺気すら感じられるほどだというのに、全く気にせず海人は笑っている。

「で、何かご用ですかと訊ねているのですから、わざわざ呼んだのなら早く答えてください」

 そんな野乃花には、報告を受け楓雅との相談も終えた林太としても、苦笑いで見ているばかりだった。こう見えて、というかああ見られておきながら、少なくともこの中では林太が一番の常識人だった。楓雅は能力なども含めて常識離れしているし、野乃花は当の本人といったところだし、和輝と海人に至っては違う世界からやってきているのだからここの常識などあるはずがない。

 この場にいる人が誰も誰だということもあるのだけれど、それだって林太は”普通”という感覚にそれなりに近い人であった。国の主として君臨しているのだから庶民らしさというようなところはないけれど、気高さというものとは良い意味でも悪い意味でも遠く、臣下どころか民とも親しむ人である。

「失礼致します。呼ばれるとどうしても反応してしまいまして、このようなところだとは思っておりませんでした。ご無礼、お許しください」

「今の今まで気付いていなかったのか」

 遂に驚きで林太は声を漏らした。今更になって野乃花が挨拶をして来るものだから、挨拶のないことよりもかえって戸惑わせたのだろう。

「で、ほら、早く話すのです」

 順番に睨み付けていきながら海人を促す。

「目的はもう果たした、または果たせるところだね。これから戦になるようなことかもしれないし、そうでなくても危険な状態になるのは間違えないだろう。元凶を作っておいて知らないとは言わないよね? 自分で仕掛けておいて巻き込まれるなんて馬鹿なことはない。帰ろう、早く帰ろう。咲希様はここにはいない。和輝君はすぐここにいる。だから、僕たちはもう帰ろうか。きっと日良様は僕たちを待ってくれている」

 笑顔で海人は野乃花の耳元に囁き掛ける。吐息の感覚に不快感を深めたようではあるが、野乃花はそのとおりだろうと静かに頷いて返事をした。


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