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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
73/85

しき

 いくつも立たせられたそのときにストックしてあった小森家の旗を玲奈の軍隊に持たせ、その戦闘で指揮を執るのは雄大、その隣では一葉が補佐をしている。この滅茶苦茶な軍隊に何を思われることだろうか。望むような勘違いをさせられることを願って雄大は前に立つ。

「奇襲などが成功させられると思ったか! 愚か者め!!」

 怒声が聞こえてきたけれども雄大は一切怯まなかった。むしろ笑っているくらいだった。

「一斉に旗を掲げよ!」

 雄大の叫びに合わせて小森の紋が揺れる。見えてもいないかのように、川上側は全くの無反応であった。バレずに進むことは不可能だろうと思っての奇襲作戦ではあったのだが、到着と同時に気付かれ、相当に意外であるはずのことにも少しだって動揺をされないものだから、さすがに雄大は困惑を見せた。

 少しは混乱させられるだろうと思ったのに、予想が外れたことだが雄大は動きはしない。圧倒的な力の差を見せ付けられながらも、ほんの少しだって怯むようなところはないのであった。堂々たるところは雄大も同じであった。

「大将を探せ! 捕らえよ!! 決して死ぬることなく!!!」

 叫びに合わせて信じられないほど玲奈の軍隊が統率の取れた動きをする。訓練をしていないとはとても思えない兵に、前で声を張り上げたことのないとはとても思えない指導者だった。戦慣れした軍隊のようなところでもあったので、林太の兵であることを疑われずに済んだのだろう。

 川上側から、雄大のことなどが認識されているかは不明だ。玲奈は雄大ほどは小国ではないから、存在自体は認識されているかもしれないが、それがどのような軍隊であるかは認識されていないだろう。つまり見事に兵を率いていれば、旗を疑う要素はなくなるのだ。

「口調にも何か意味はあるのですか!」

 先頭を駆ける雄大に馬を並べ、一葉は尋ねる。士気を高めるために先頭を走ってはいるけれど、武器を掲げているだけで、一切それを振るおうともしない雄大とは違う。一葉は戦い、敵を薙ぎ払いながらのことだった。雄大の前を走る敵のことも彼女が倒し道を開けていた。

「物真似ですよ!」

 風を切って一葉の耳に届く声は、確かに伝える距離を飛ぶ鋭さを持っていたけれど、いつもの彼らしい弱々しさも残していた。ただ密かに人のことを見、観察と研究を繰り返してきた雄大は、真似ばかりでもかえってそれを自らの戦術として扱えていた。人には見せない強さを持っていた。

「……物真似?」

 百戦錬磨の一葉は、雄大が見ていた小森軍の指揮というものを知らなかった。軍人として立ちながら、観察力のないことを彼女は僅かに恥じていた。


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