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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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隠された才

 突如として現れた深雪から、もう咲希は捕まってはいないのだということを知る。けれど和輝を助けるために、一葉と雄大は作戦を変わらず遂行することになっていた。

 丸一日にも及ぶ作戦会議の末、怯えはどうしたってまだ残る様子ではありながらも、雄大が自ら先頭に立って兵を率いようと進み出た。訓練のされていない、戦慣れをしていない玲奈の兵を、今まで指揮を執ったことなどないような雄大が先導して戦いを挑もうというのだ。

 その相手は百戦錬磨の川上家。本来の目的は小森林太の、もっと言えば捕らえられている和輝でしかないはずなのだが、戦おうとしているのは十分すぎるほどに強い敵をも上回る強敵なのであった。

「戦おうとしているのではありません。みなさんを死なせたくはありません。ですからお願いします。信じられないかもしれないけれど、自分自身が信じた主以外に従いたくなどないかもしれないけれど、今だけ、今だけは従ってください。疑問を抱かず、まっすぐに従ってください、即座に動くのですよ」

 自信のなさげな普段の雄大の姿からは想像のしようもないような堂々とした態度で、けれど彼らしい丁寧な口調で、兵たちの前に立った。声を張らない彼の叫び声は、妙に一人一人に声が届くようであった。

「お前らは軍隊だ、軍人だ、甘い気持ちでいんじゃねぇぞ!」

 最後に大声で叫んで、颯爽と雄大は走り去った。誰のイメージにもそうあれるよう、誰に対しても弱々しく臆病な彼であり続けた。それは彼のことをよく知る人にも、噂程度にしか知らない人にも、敵にも味方にもそうであり、同じ態度を取り続けていた。

 小国の主として、自らの国を守るにはそれはやむを得ないことであったのだろう。少しでも怪しまれるようなところや、恐れられるようなところがあってしまってはいけない。敵に回すことに、少しの恐怖を感じられることもないようであることが、自分の国だけを守るには最善だと考えたのだ。

「……ここまで来たのですから、さすがに引き返せませんね。本当は今すぐにでも国に帰ってしまいたい、戦争なんて嫌だ、それに城が心配です。だからこそ、急がなければならないのですね。実際危険に晒されるのは我が民ではない、けれど、望ましいものではありませんし」

 もごもごと口の中で呟いて、気合を入れるように雄大は自らの頬を掌で叩いた。

「痛いですよ」

 自分の力加減によって赤く腫れるほどとなった頬を押さえて、雄大は一人微笑む。微笑みを返す彼の仲間はここには一人もいないようであった。


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