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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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関係

 暫く考え込んでいた楓雅が林太の耳元で、他の人、特に海人に聞こえないように報告をした。それならば海人を部屋から追い出せば良いと思うのだけれど、そのつもりはないようだ。

「目的があるとしたら、警告、私はそう考えます。私だからとかではなくて、彼の性格から考えると、邪魔になったということなのでしょう。侵攻の口実に私の名を思い出したように使うというだけ、それ以上の意味などないことでしょうね」

 それに納得が出来てはいないようだけれど、「なるほど」と頷いて林太は楓雅の考えを受け止めた。自分の考えと楓雅に聞いた考えとを並べて、改めてまたも深く考え込んでから、楓雅をジッと見つめた。

「調子に乗って戦争をしてしまったせいだろう。どこかに狙いの地があったのだろうな。それに気付かないでつい攻めてしまった。それを取り返そうというだけだろう。そういう意味では、警告と言っているのは間違いではないのかもしれんな」

「ちょっと聞こえないよ。内緒話? 仲間外れ? 僕に聞かせちゃって大丈夫なのって思ったけど、実際そう聞かせて貰えないと寂しいな」

 林太が楓雅の耳元で、小声で返したところで、不満げに海人が声を上げた。声色は明るいものだったし、表情だって笑顔なのだが、それがかえって林太や楓雅には怪しく映った。まさか本当に海人が何も考えていないだとは思わないのであった。

「すみません。私と林太様だけのお話ですから、残念ながら、そう言われましても何も言えないのです。他人にこう言ったお話をお聞かせするのは、いくら私でも、……恥ずかしいですから。しかし少しくらいは気を回してくださいよ。口を挿むこと自体が野暮ではありませんか」

 感情の感じられない声ではあったけれど、楓雅がそんなことを言うものだから海人はそれ以上言えなくなった。全くの無表情の棒読みだったとはいえ、普段から、ほとんどどんなときでも楓雅はそうなのだからなんとも言えないのだ。林太の傍にいて安心しているときに感情的になることはあるとはいえ、それでも普段の会話は無表情、それが楓雅だ。

 黙って見ていた和輝には、さすがの観察力というか直観力というかなんというか、楓雅の僅かな表情の変化が読み取れているらしい。どうやら楓雅が勘違いさせようとしているらしい話ではないことを和輝は理解したようだ。

「そっか。野暮か。うーん、それじゃあ、僕は僕で和輝くんと話していることにするよ」

 和輝が何か言おうとする前に、海人がそう言って和輝の隣にさっと座ってしまった。作戦があるだとか楓雅を疑っているだというようなところはなく、反対に多少は強引な流れとは言え二人で和輝と話せることが海人は嬉しいらしい。この逃げられないし邪魔出来ない状況を作った自分に満足しているくらいなようだ。

 元々、日良に救われたので恩返しの為に日良の為に働こうという気はあるというだけで、海人が想っている相手は和輝だけだ。最初から和輝を追い掛けてきたのだ。どこまでだって追い掛けてきただけなのだ。拘って林太と敵対するつもりもある訳がなかったのだろう。

「でもなんか、こうやって海人と話すのって久しぶりな気がして逆に戸惑うかも。こっちの方が普通なのに、戦争とか作戦とか、そんなへんてこりんな話に慣れちゃってんのかな」

 和輝としても見ていて楓雅の表情が揺れたことに気付いたからと言って、だから何をするというのでもない。海人が話したがって話し掛けてくれているのに、それを拒む理由はなかった。

 心の中で林太は呟かないではいられなかった。『この無頓着さに嘘がなく、欲望も嘘も卑怯さも見られず、それどころか本物の善意さえも感じられる。だから殺せなくなるのだろう。格好付けた極悪非道の仮面を付けて、正義の仮面を被った悪人を倒す、そんな馬鹿らしい使命感もすっかり忘れられる』拍子抜けしたのか、呆れたのか、楓雅に微笑み掛けた林太に溜め息が混ざった。


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