表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
7/85

涙の無表情

「和輝様はそこがお嫌いなのですか」

 孤独に震え、今まで一度も感じたことのない恐怖に、和輝は涙を流していた。その様子を見て、楓雅は無機質な声を投げた。和輝は笑顔が多かったので、彼の涙が不思議で不思議で、楓雅は小さく首を傾げた。

「え。楓雅……、ちゃん? ここで何をしているの? てか、その格好どうしたのさ」

 涙を拭いて楓雅の方へと顔を向けると、すぐに彼が全裸であることに気が付き、頬を紅潮させ和輝は問い掛けた。暗闇の中で微かな光を反射し、眩いほどに輝く白い肌には。その細く澱みのない、ただ美しい体のラインには、和輝としては見惚れる他なかった。

「寝起きですので、服を着るのを忘れておりました。申し訳ございません。和輝様のすすり泣く声が聞こえてきて、止められなかったのです」

 そうは言いながらも楓雅には、美しい体を隠す様子もない。惜し気もなくその裸体を晒し、悲しげに瞳を伏せた。全てが儚げで美しく、和輝は涙を溢れさせた。

「楓雅ちゃん、優しいんだね」

 ゆっくりと楓雅の方へと歩み寄り、左手では檻を握り右手は檻の間から楓雅の方へと手を伸ばす。そんな和輝に対して、楓雅はそっと近寄っていき、白く細い両手で和輝の右手を包み込んだ。その手から全く感じない温もりに、そのあまりの冷たさに和輝はぞっとした。

「体、冷えているんじゃないの? 季節はもう初夏で暖かい。だけど、裸でいるにはちょっと寒いよ」

 そう言って和輝は羽織っていた上着を差し出そうとするが、楓雅は和輝の手を握ったままで離さない。簡単に振り解けそうでもあるけれど、和輝はその手を振り解くことが出来なかった。あまりに細くか弱いその手を、振り解くなんて無理に決まっていた。

 振り解いてしまえば、もう二度と触れることさえ出来ないような気がしたから。その冷たい手を離してしまっては、このまま彼は氷となってしまうような気がした。氷の華として、大切な人さえも傷付けてしまいそうだった。だから和輝は、楓雅の方から握ってくれている手を、振り解くことなど出来ない。

「私のことを心配して下さっているのですか? 和輝様にとって、私は恨むべき存在の筈です。私のせいで、和輝様はこんなところにいるのですから。和輝様を泣かせてしまっているのも、私なのでしょうから」

 いかに悲しげに語ろうとも、楓雅は変わらず無表情であった。その哀れな姿に和輝は、檻を掴んでいた左手も伸ばし、楓雅の腰を抱き寄せた。軽く力を入れただけなのに、楓雅はよろけて和輝の目の前へと。そのまま、檻にこつんとおでこをぶつけてしまった。

「あっごめん、大丈夫だった?」

 変わらずに無表情な楓雅だから、和輝は心配になる。赤くなってしまった楓雅のおでこを、和輝が解放された右手で撫でると、白い肌に花を開かせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ