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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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立場

 かなり沈み揺らいだ状態ながらも、呆然としたところが抜けないながらも、咲希と日良は歩いていた。いつか奪われてしまった咲希の城、一度は手にしたものの、今や小森の旗が立てられた雄大の城、咲希が帰れる場所はもう日良の城しか残っていない。

 度重なる戦の中で、いくつもの城を奪っては奪われ手を繰り返していた咲希だったが、結局は何も増えていないことに咲希は気付いた。全てを統一して、民が傷付くことがない国を作ろうとしていた。そこに辿り着く為に戦うことは、仕方のないことだと信じていた。しかし何も変わっていないことに、咲希は気付いたのだ。

「そんなとこにいたんだね。城に帰ってて言ったじゃん!」

 明るいけれど、咎めるような鋭さのある深雪の声があった。咲希と日良が歩いているのは見晴らしの良い草原なものだから、隠れられる場所などどこにもない。二人が周囲を見回しても深雪の姿は見当たらないのに、声は更に続いた。

「強くたって姫なんだってこと、自覚してよ。日良も珍しいよね、どうしたの? 護衛も付けないで、どうしてこんなとこにいんの!」

 小さく盛り上がっていた地面から、深雪が飛び出してきた。傍にいながらも彼女の忍者としての腕を見せられることは少なかった咲希、すごいすごいとは知っていたが、予想もしないところから出現したものだから驚きが抑えられなかった。

 忍者としての深雪の姿を見てきた日良でも驚きがあるようだった。木の上から降り立ってきて、わざと驚かせて来ようとすることはよくあったが、今回に関しては隠れられると思われるような場所があまりになかったものだからである。いつから深雪がいたのかということも戸惑いである。

「これは無防備ってもんじゃない? 深雪だって、今の二人は簡単に殺せた。全然、二人とも気付かなかったもんね! 攫われてんだから、ちょっとくらい懲りろって」

「お前が敵に周りでもしない限り、私は殺される心配はないだろう。そして深雪と敵対するようなことがあれば、何があっても私は負けだ。一葉のことは心残りになるが、私もあいつも、お前の実力は理解しているから」

 それらしく言った咲希に困った様子も見せたが、にこっと深雪は不気味なほどに笑ってやった。

「理解してる? ううん、してないね。理解してるんだったら、ほんとに深雪を信じてるんだったら、こんなことしないもん。そんな言い方したら、こんなことしてたら、一葉だってジュッキーだって、もち深雪だって困るんだよ。それと、野乃花ちゃんに会ってさ、とっても……寂しそうにしてたよ。だからさ、咲希だけじゃなくて二人とも、とにかく、自分のことをちゃんと大切にしないと駄目だから。大切に思う人がいるってこと、忘れないでよ!」

 不気味な笑いを浮かべるときは、いつも悪戯をするときだったのだけれど、そんな深雪が真面目に怒っている様子が見て取れて、二人は何も言えなくなった。深雪の想いが流れ込んできて、何も言えなくなった。

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