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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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「林太様っ!」

 珍しく声を荒げて部屋に楓雅が飛び込んできた。部屋に残っていた和輝と海人、ずっと楓雅を隣で見ていた林太ですら、楓雅のその様子には驚いた。

「すみません、謎の忍びには逃げられてしまいました。懸命に追ったのですけれど、急に気配が消えてしまいまして、残った手掛かりだけでも調査していました。その、それで、どこの忍びかが……これも罠かもしれないのですけれど、判明したかもしれないのです」

 報告をする楓雅をジッと三人が見ていた。三人の視線は同じように彼を見ているけれど、その視線の色はかなり異なっている。

「人払いをしないどころか、明らかに敵であろう僕たちがいる中で報告をしてしまうの? 多分、僕は和輝くんみたいに馬鹿じゃないよ?」

 海人の言っていることは尤もであり、納得はしたようだけれど、それでも林太はその声を受け入れなかった。もしかしたら、そうするであろうことを林太を見た上で海人は既に理解していたのかもしれない。反対に今更になって追い出しづらくなるだろうと、先手を打ったのかもしれない。

 彼自身も言っているように、和輝ほど海人は馬鹿じゃない。あえてわざと道を封じられたのだという可能性を考えない林太ではなかった。迷ってから、とはいえ海人に敵意がないことと、力がないことを理由に優先する方を決定した。

「ちょっと海人、それはいくらなんでも失礼じゃない? 人を馬鹿の代名詞みたいに言わないでくれるかな」

「いや、そういうつもりじゃなかったんだ。和輝くんは素直で素敵な人だな、と、そう思っての言葉なんだ」

「まさかだけど、それで誤魔化せるとでも思ったの……?」

「え? 誤魔化されてくれないの?」

 そんなやり取りを和輝と海人はしているくらいなのだから、相変わらず能天気な二人組なのだろうかと、警戒は怠らないながらも林太は僅かに安心も見せた。

「構わん。楓雅、話せ」

 何があってもどのような内容なものでもあっても、楓雅が林太の命令に背こうとしたり反対をしたりするようなことはありえない。そういった林太の命令であったので構わず話し出した。

「やはり深雪様に比べると、劣る忍者なのでしょう。気配が消えたその周辺には、何も残っていなくて困りましたが、その先に手掛かりを残してしまっていました。不審な影を民が報告してくださったのです」

 それは林太の城下町ではよくあることであったから、彼にはすぐに楓雅の言っていることが伝わったようだけれども、海人のようにこの地のシステムを認識していない人には難しかったのだろう。

「民が報告?」

 海人が首を傾げると、察したようで楓雅が説明をしてくれる。話を聞かせてしまうどころか、わざわざ海人の為に説明までをしてくれようというのだから、これは最早仲間なのではないかと海人も感じてしまっているくらいなようだ。

「城下町、本当に直轄地にお住みの方々は、林太様の素晴らしさをよく理解しております。ですから、心から林太様を慕っているのですよ。何かありましたら、自主的に報告をしに来てくださいますし、林太様のお役に立とうと動いてくださるのです」

 表面こそ全くの無表情だったけれど、そう語る楓雅はどこか微笑んでいるようだった。言葉と口ぶりを咀嚼して、海人の丸い目は極限まで鋭く細く林太を見た。きつく睨み、目の細さは変わらないままにんまりと笑った。

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