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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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考え

 一葉は考えた。けれど彼女は軍略を得意とするでもなく、兵法に長けているという訳でもない。常識はある、冷静ではある、自分の実力を知っている。そんな賢さは持っていたが、知識的な賢さは意外にもそれほど持っていないのであった。

 対する楓雅は、一騎打ちやら暗殺やらの武の部分が目立ってはいるけれど、天才的に全てに秀でた典型的なまでの文武両道だった。無駄に作戦を立てたところで、勝てる要素など少しもないことは明らかである。

 実力を過信して、作戦を用意していけばそれが必ずしも成功するように仮定を立てられるほど、一葉は能天気でも馬鹿でもない。玲奈を利用する程度の智なら自分にもあると考えた一葉は、相当の量の兵力を用いられる上での計算をしたが、それでも彼女は不安でならなかった。計算上は数で勝ることになるが、相手の数が正しいとも思えないし、仮に勝っていたとしても勝てるとは思えなかったからだ。

 一葉は考えた。どのようにしたら、勝利が得られるだろうか。いや、今ここで戦に勝利する必要はないのだ、彼女は考える。どのようにしたら、咲希を救えるのか。まさか深雪によって咲希が救い出されているだとは、考えもしない彼女は必死であった。

「どこの旗を立てるのが最も相手にとって想定外だと思われますか? どこの軍勢が出現したら、驚くと思いますか?」

 考え込む一葉に、勇気を出して雄大は言う。変化と責任を嫌う彼は、動く勇気と一緒に責任を負う勇気も得たとでも言うのか、敵が敵なのだから失敗の可能性も高いというのに意見をしたのだ。

「雄大殿が言葉を発した今が、私にとっては何より驚きです」

 中々に失礼なことだが、玲奈には思ったことを言えないで我慢している反動もあってか、いつにも増して容赦のない一葉である。しかし雄大は頷いて笑って見せた。

「そういうことですよ」

 いつになく自信に満ちているようなのは、彼が覚悟を決めたという証拠なのだろう。人を傷付けることを望まない彼は、欲のない彼は、無駄なプライドを持っていない彼は、どう非難されようとも平和主義を貫いた。けれどそれは、才能がないのとは違っていた。

 積極的な平和主義が咲希で、消極的な平和主義が日良であれば、最早雄大は平和的な平和主義とすら言えた。傷付けない、それをこそ優先していた雄大は、日良よりも更に対立を避ける”平和”という平和を求める人だった。

「なるほど。……ですが、それで良いのですか?」

 尋ねた一葉に雄大は迷いなく頷いた。彼の言葉はそれだけでは終わらなかった。

「驚きではありますが、納得でもある、そんな軍もありましょう? 捏造でも誘き出すのでも、どちらでもやり方によっては可能だと思われますが、どのようにかして川上の軍の出現を思わせましょう。脅威でしょう? 無駄な備えと費用が増えるでしょう?」

 ずっと頭を抱えていても、一葉は一つも案など浮かびはしなかったというのに、不安そうな顔をしているだけだった雄大が、凛としてしゃんとして一葉に告げた。無意識に圧力的な態度となってしまう一葉だが、雄大には少しだってもう怯える様子などなかった。

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