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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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読めない影

 海人にはわかっていた。海人にだけは、わかっていた。彼は確信を持って、楓雅が警戒している相手が、野乃花であるということを断言することが出来た。しかし彼はそれらしく笑うばかりで、余裕な笑顔を決して崩さず、どこか彼方を見つめていた。

 駆除するまでもないと、最初こそそう言ったものの、報告を聞いてそうも言っていられないことを林太は感じた。あの楓雅というのは、噂だけを知る人だけでなく、彼の傍で本当の彼を知る人でも通じることなのだから、あの楓雅がそれほど言うからには、なんだって言えなかった。

「同じところを行ったり来たりで、目的が全く読めません。気付かせることすらわざと、そうも考えられるものですから、それが深雪様である可能性も捨てきれなくなりそうです……」

 探りに出て、帰った楓雅は更に足した。天井の気配に、随分と踊らされてしまっているようだ。どこかの城から忍びを送る理由がこのタイミングでないものだから、確実にこの城内にいると考えられる、腕の知れた忍びである深雪を疑うのは当然と言えば当然であった。

 本物の深雪がどこにいるのかは、こうして楓雅を惑わしている野乃花にだってわからなかった。情報が与えられないまま、意味だってわからないのに、指示した通りに動いていた。忠実にそれを守っていた。

「悩む楓雅の姿など珍しいものだから、それを見せてくれた鼠には感謝しなければだな」

 傲慢で意地の悪い極悪人の顔で、林太は楓雅の紙を撫でた。そこに噂と真実の姿とが、存在しているようだった。

 どう聞いたところで楓雅への気遣いであるとわかる言葉であったから、無表情を僅かに歪ませた。困ったような楓雅の眉を、太く醜い指で林太は伸ばしていく。魔法のように困惑が消え、機械のような美麗な無表情に戻されていく楓雅のことを、眺める和輝はひどく切なそうであった。

「あ、あの、調査へ行く許可を頂けますか? 私が直接、会って見て来たいのです。危険こそあるでしょうが、怪我がないように努力だけしてみますから、どうか私に。私は、林太様の役に立ちたいのです」

 決意の強く籠もる楓雅に、どうしたって林太は逆らえなかった。笑ってやるのが精一杯だったから、「努力だけじゃなくて、誓っていけ。今度また怪我をして帰ったら許さないからな」そう送り出した。

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