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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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埋もれた天才肌

 野乃花は、与えられた仕事をそつなく熟す人であった。必要以上に労力は使わず、彼女の戦闘はいつも鮮やかであり、最も効率的な手段がいつだって選ばれていた。

 完璧だったのだ。しかし何もかもが中途半端に完璧であった野乃花に、限界を超えるほどに突出した力を持つ分野は、一つたりとも持っていなかった。何をしても通常の人の得意にまで勝るほどの完璧な仕上がりを見せてくれるのだから、勿論それは優秀なことなのだけれど、天才たちの中にいるとどうしても必要とされるところの薄さは誰にでも感じられた。

 傍から見ていて気付く内容に、気付かないような鈍い本人でもないのだから、野乃花自身だって気付いていないことはなかった。空気までを敏感に感じ取っていた。

 そんな彼女であったからこそ、深雪に任された役割は適切で、適当で、最適なものであったのだろう。凡人に見抜かれるそれではないけれど、本物の天才の目を欺くことなど決して出来はしない。それなりの優秀さであるがために、見事に楓雅の目を惹いた。

「手練れの忍者だと思われますが、どこが、どのような目的で送ったのでしょう。和輝様がここにいるのですから、深雪様が城内にいるであろうことは確実なことです。物音一つしませんし、気配だって微かなものですが、その微かな気配を残してしまっているのですから、この気配が深雪様だとは思えません」

 林太たちのいる部屋を抜けて気配を追った楓雅は、やがて部屋に戻ると林太にそう告げた。こっそり聞き耳を立てていた深雪は、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。無事に野乃花が楓雅に覚られて、どこぞの忍者が忍んでいるのだと勘違いさせられたのが、どうやら深雪は嬉しく楽しいらしかった。

 一方の野乃花は、あの天才川上楓雅からどのような評価を受けているか知る由もなく、深雪に指示されたように、それだけを実行していた。息を殺して、気配を消して、彼女なりに徹底した忍びのふりを努力していた。

 日良の隣で様々な役割を一人熟していた野乃花ではあるけれど、忍者と呼ばれるような人たちのする仕事には経験がなく、もっと正々堂々とした戦いだけをまっすぐに心掛けていた。ただまっすぐだった彼女が、初めて挑戦した”なんちゃって忍者”は、手練れの忍者だと思われるなどと楓雅に言わせたのだ。

 その能力の高さというものを、野乃花自身は理解し切れていないようだった。天才たちに埋もれた天才肌な彼女は、自嘲しながらも与えられた仕事を完璧に果たしていた。

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