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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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揺れる旗印

 雄大は簡単に主を変える。誰に対しても決して牙を剥かない。それは、有名な話であった。だから小森の旗が並んでいることを、他国の人は、彼の城下に住む民だって怪しみはしないだろう。またか、そう思われるだけに決まっている。

 最近は楓雅の活躍もあって、急激に勢力を拡大している小森の旗であるから、尚のことそうであった。奪い取るのは簡単にしても、奪い取ったがために林太に睨まれることを考えると、手を出しづらくなるものだから、普段よりは雄大も長続きすることだろうと考えられた。

 一つだけ、おかしなところがあった。いつもならば、彼が降伏したそのときの主の旗が半分、もう半分は本人の旗が、きちんと髙橋の旗が立っているものなのだ。それが今回は、小森の旗しか立てられていなかった。まるで完全に領有されているようだ。


 玲奈の城内で、雄大は一葉に訴えていた。怯えて意見を主張することなどなかった雄大が、思い悩んでいるか不機嫌だからか、殺気立っている一葉に対して、だ。

「城が心配です。痛いのは嫌いだし、怖いのだって嫌だけれど、僕がどうにかされるのなら、覚悟は出来ていますから構いません。ですが、僕がいない間に、信じてくれている人たちが、平穏を求めて訪れてくれている人たちが、住んでくれている人たちが、傷付けられるのが堪らなく辛いのです。領地のことが心配でなりません」

 泣きそうな声であった。気合を入れて覚悟を決めて、自分の治める地が安寧であることを保たせるために、策も講じては来たのだけれど、滅多に城を離れることのない雄大であるから、そのことも足されてか不安でならないようであった。

 しかし薄情者と呼ばれても、戦争を交わしてきた雄大が抱える「民のため」の想いを、ここで初めて一葉は知ったような気がした。臆病が小さな自己犠牲であったことにも気が付いた。

「こうして話をしてみれば、誰も平等に平和を望んでいるというのに、どうして戦が巻き起こるのでしょう。戦を望む平和と捉える人など、いるはずがありませんのに、なぜ平和的な解決法がどこにも見出せないのでしょうか」

 雄大と一葉の言葉は、会話としては成り立っていなかったけれど、言葉を交わす意味では噛み合っているようでもあった。一葉の頭の中に、彼女の知る領主たちの顔が次々と浮かぶ。今までの彼女は、咲希の考えこそが絶対であり全てであり、正しさであった。

 戦の先に平和があるから、戦で勝って平和な世の中を作りたいから。平和という目的に嘘のないことは、咲希を見ていれば明らかだったけれど、そこへ向かう道に本当に戦が必要であったのかと、一葉は疑問を持った。絶対的な真実であり常識であったそれに、彼女は疑問を持ち始めていた。

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