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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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和輝の巻

 冷たい牢屋の中で、変態男子高校生の三村和輝は目を覚ました。

「咲希ちゃん……?」

 不安のあまり、和輝はそう呟いていた。しかしそこに、彼が求めている少女の姿はない。すぐに篠崎玲奈の城へやってきて、そのまま泊めて貰ったのだと思い出す。が、牢屋になど泊めて貰った覚えはない。

「深雪ちゃん……?」

 一緒に泊めて貰っている筈の、深雪の名を和輝は呼んだ。しかしこれにも答えはない。一緒にきていなくとも、名前を呼べばいつも現れてくれる深雪だから、返事がないだけで酷く不安にさせた。呑気な和輝も、さすがに恐怖を覚える。

「一葉ちゃん……?」

 願いを込めて、和輝は更に名を呼ぶ。意外とおっちょこちょいな場面もあるが、基本的に一葉はしっかり者だ。そんな彼女のことを和輝は信じていたし、頼れるお姉さんというような認識も持っていた。名前を呼んで、明るく「はい、なんでしょう。和輝様」なんて返されたことは一度もないが、面倒そうな顔はしても返事はしてくれていた。

 冷たい壁で跳ね返るだけで、どこからも返ってこない答えに、和輝の中には不安だけが重なった。

「戦、ちゃん……」

 諦める訳にはいかないと、怠い体を起き上がらせて、床を軽くノックしてみた。もしかしたら、床が四角く開いて、病人のような顔で出てきて驚かせてくれるかもしれない。そんな、微かな希望を抱いて。

 当然、その希望はすぐに打ち砕かれてしまう。あれは咲希が穴の場所を知っていて、そこに呼び掛けたというだけだ。穴掘り名人かつ研究者の戦とはいえ、どこにでも穴を掘っている訳ではない。無駄に穴への入り口を増やして、万が一に見つかりでもしたら大変だからだ。

 そして和輝は、親友の友達を呼ぶのが遅くなっていたことに気付く。本来ならば最初に呼ぶべき、少し前ならば最初に呼んでいた筈の、親友。自分の為に異世界まで自力でやってきて、好きと伝えてくれた大切な少年。


 だから親友を疎かにした自分を、責めずにはいられなかった。彼が自分の為にどれだけ努力してくれたか、隣でどれだけ尽くしてくれたか、どれだけ支えていてくれたのか、十分に理解しているから。

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