排他的に
「いつになったら、戦はなくなると思いますか?」
尋ねる日良の声は僅かに震えていた。それは日良が心の中で恐れ、無意識に避け続けていた問いだったからだ。彼の口から出て来ることは何度もあった言葉、けれど彼の中から出て来ることは、初めてとなる言葉なのであった。
咲希にはずっと日良のことを理解することが出来なかった。いつだって本心を隠した日良を咲希は疑っていたが、それは全てが彼の我慢だった。時折見せる日良の苦しげで悲しげな表情を、咲希は反省と読み取ってしまっていたが、その反省は後悔と自責に包まれた深い彼自身であったのだ。
ずっとずっとずっと、日良のことを勘違いしてしまっていたことを、今更になって気付いた咲希は後悔した。誠意と優しさで自分を封じ込めて、自己犠牲で努力家なのに少しだって報われない日良が、いかに健気で不憫であったかを思い知らされたのだ。
「今すぐにでも、なくせるはずなのだ。お前のような奴が多数派になったら、自然となくなるはずなのだ」
溜め息に覆われた咲希の言葉に、日良は困ったように眉尻を下げる。どうして咲希がそのようなことを言ったのか、その理由は日良には難しかった。
「いえ、極端に排他的な私の考え方が多数派になっては、戦は過激化するに違いないのです。私が選んできた方法を、知らない咲希様ではないはずです」
仲間を守るためには、それ以外の人の犠牲は厭わない。それが多数派となったら、ああ確かに、戦になるに違いなかった。今までの日良のことを考えて、自分の持っていたイメージとも重ね合わせ直して、考えてみてもやはり咲希の考えは変わらない。
「お前は少々復讐が過激なだけだ。自ら仕掛けるようなことはしない」
「ただ、臆病なだけですよ。それで私は非難されているのです。弱い私は、この乱世に相応しくないのでしょう」
「我慢を出来るということは、戦に強いことよりも、きっと強いに違いないさ。この乱世には、お前こそが必要なのだ。自分であれるお前が、私は羨ましいよ」
「私は咲希様のお仲間方が、羨ましくてなりませんよ。野乃花がいなければ、他に頼む人がいないのだということを、今日のことで気付きましたもの」
お互いにお互いを見て、世界の苦しいことを見た。求めるものは、決して手に入ることがないことを知った。二人の視界が重なったことは、過去、初めてのことであった。
「いつになったら、戦はなくなると思いますか?」
もう一度、日良は尋ねた。今度は、日良の声は震えていなかったけれど、代わりに咲希が震えているのだった。そのことに気付かない、咲希だって気付きはしない。