子供
一葉は考える。作戦を立てようかとも思ったが、苦労して考えたところで、それが玲奈に聞き入れて貰えるとは思えない。だから、作戦なしで戦った場合に、どれだけ玲奈の軍は戦えるだろうかと考えた。
「玲奈殿に質問なのですが、どれほどの兵力を用意して頂けるのでしょうか? 指揮をお任せ頂ける兵力も別でお教え頂けると嬉しいのですが」
迷った末に一葉は、直接玲奈に尋ねるということを選んだ。想像したところで、玲奈の気分など推定のしようがない。彼女をよく知る人だったとしても、脈絡もなく彼女が思い付き、気分で言うような内容はとても予想が出来ない。彼女の塩梅も予想が出来ようもない。
それを、玲奈のことを詳しく知る訳でもない、彼女の傍にいる訳でもない。そもそも玲奈のことが好きな訳でもない一葉が、予想なんて出来る訳がないのだ。つまり本人に訊ねるという選択は、かなり適当で正しいものだと言えた。
「うんとね、そういうの無理。難しいこと考えるの、好きじゃないから。何? 面倒なことなの?」
非難すれば気分が変わるだろうと、意見するにも警戒しようと、そう考えてはいたけれど、質問でもいけないとはまさか一葉は思いもしなかった。もう既に、気分が変わりつつあった玲奈であるから、ご機嫌取りをしなければならないところだった。丁度、玲奈の飽きの周期が来たところだったのだ。
驚き、慌てて一葉は玲奈が興味を持ちそうな話題を探した。面白がられるのはどうしても癪だったが、面白いと思って貰えるだけで、大軍が手に入るのだと自分に何度も言って気を諫めた。何を言ったなら、玲奈がまたヤル気になってくれるか。玲奈からより多くの資金を出させ、兵を出させることが出来るか。玲奈を良い気にさせる方法を考えた。
「いえまさか、面倒なことなどございません。憎き林太をぎゃふんと言わせることですよ」
「本当に? 何それ、すごーい! 生意気な豚をぎゃふんって言わせたいって、ずっと思っていたのよ。咲希もそうだけど、あの豚はもう生意気にも限度があるっつの」
「……何様だよ」
ボソッと本音を漏らしてしまうのは、咲希を相手にするときの一葉の言葉に、容赦がないからだろう。普段それに慣れてしまっているから、上手な作り笑顔も時々引き攣るし、言葉だって本音が漏れそうになる。零れる本音をきちんと息に溶けるほど小声であるのは、一葉の理性のせめてもの努力だろう。
「あ? なんか言った?」
「ええ、力強いと、そう申しました。玲奈殿のお力があれば、私たちでは到底敵わないような敵にも、容易に勝利することが出来るのでしょうね」
「あっそ」
一葉の必死の取り繕いは、不自然なところもあったけれど、それを疑うことなく玲奈は興味ないといった様子。良い意味でも悪い意味でも、玲奈は子供過ぎた。




