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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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距離

 二人でただ歩いていた。会話をしたいということだったのだが、お互いに話したいことも話すべきこともあったのだが、無言のまま二人は歩いていた。何から切り出したら良いのか、きっとどちらにもわかっていないのだった。

「あの、咲希様、咲希様は、何があったのかを知っているのですか? どういった経緯で、何が起こって、どうなったのかを知っていたのですか?」

 言葉を選びながらも、尋ねた日良に咲希は戸惑う。まさか日良の方から、こうも切り込んだ質問を急にして来るとは、思ってもみなかったことだからである。

 今までの日良とは違う、変わっているのだ。変わってきているのだ。人も変わっている、関係も変わっている。そのことを、もうさすがに、意識し認識しないではいられなかった。

「詳しいところは知らない。目が覚めたら牢屋のような場所にいて、呼び出されて、豚のところへ連れて行かれて、……けれど私から屈辱的な言葉を聞けば、満足げに持て成してくれた。何があったのか、何がしたかったのか、だから私は知らない」

 城を出て暫く歩いたところで、やっと二人の会話は始まった。頭上で穏やかに輝く太陽は、まだ時間がかなり残されていることを告げ、それが二人の歩幅を狭くする。

「屈辱的な言葉、ですか。たったそれだけのものを求めて、誘拐などしたのでしょうか。ましてや咲希様一人でもないのでしょう?」

「そうだな。たったそれだけ、言ってしまえば、それだけのことなのだ。しかし戦とて、そう言った言い方をしてしまえば、どれも理由はたったそれだけのことだろう。……それが、普段からの、お前の見え方なのだな」

 何気ない言葉から、発した本人は気にも留めていなかった言葉から、二人の価値観の差が出てくる。それが長い間、距離を埋めさせてくれなかったのだろうということを、話してみてやっと伝えてくれるのだ。

「効率的で、平和的で、お前のやり方が何よりも正しい。不思議なことに、今は、そんな風に思えるよ」

 空を見上げて溜め息を吐く咲希の姿は、彼女を知る人なら誰だって信じられないと言うほどに、大人びていて神妙な顔つきをしていた。何かを深く考え込むだけでなく、思い悩んで言うようなことは、どうしたって彼女らしいこととは言えない。

 自分では齎せなかった変化が、今、咲希に起ころうとしているのだということ。それを感じずにいられる日良ではなかった。

 咲希と日良。ずっと近くにいたのに、ずっと距離を保ち続けていた。何年もの時を経て、二人きり隣を歩き話し合い、近付いた距離なくなった障害は、二人の間にまた新たな壁を作っていた。自分には出来なかったことが、誰かの手によって行われた、その感覚はお互いに感じるところだったからだ。

「お前が私に降伏をした理由も、意味も、私にはさっぱりだ。だけど、頑なにお前が戦を批判しようとしていた、その姿勢が臆病さではないことは、もう知っているよ」

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