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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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日良という人

 日良が下した判断、それは、実に意外なものであった。

 異世界から訪れた和輝や海人といった存在が、長年凍っていた日良の心をも、溶かしたのだということなのであろうか。

「ずっと待っているだけではなくて、私もたまには、実際に自分で行って見てみたいという気になりました。咲希様には不自由をさせてしまうかもしれませんが、どうか、この私……日良にお供させては頂けますか?」

 護衛は誰にするべきか、考えた結果がそれであった。誰も護衛に付けることなく、日良自身が咲希の傍にいようというのだ。戦う力を自分が持っていないことを、知らない日良ではないのだから、彼が強くなったと言えば心のことなのだろう。

 慎重と言えば聞こえは良いが、臆病で奥手が為に、頼りないと言われてきた日良だ。そして、自分や自分を信じてくれている人を守ろうとするがあまり、関係のない人の犠牲は厭わないというのが日良だ。

 名君のようでもあり、暴君のようでもあり。安寧を求める人々は、彼の地に住みたいと願ったものだが、戦の中に身を投じてきた人々は、決して日良を評価することはなかった。臆病さが、実力を陰らせているとは、よく言ったものだ。

 そんな日良が今回に限って自らの行動を決意したのは、その慎重さを失ってしまったというわけではない。咲希が来てくれた喜びで、自信過剰になってしまっているだとか、そういうことがあるのでもないのだ。

 ”咲希からの信頼が得られるのならば、いっそ命を懸けることさえも悪くはない”と、今の彼は本気で思っていた。咲希への恋慕がやっと本物の恋であったと気付くと同時に、失恋したことを悟った日良だから。

 どこまでも賢明だった。嫉妬に狂うこともなく、道を誤ることもなく、純粋に咲希の為に生きたいと思ったのだ。しかしいくら日良だとはいえ、凍った心を溶かした真の人物が誰であるのかは、まだ気が付いていないようであった。

「意外なことだが、お前と二人でゆっくり話をしたいところだし、私としてもそうして貰えるのは嬉しい。会話もせず、ただ歩いているというのは退屈だ」

「……咲希様っ。ありがとうございます」

 瞳の中には咲希のみを映し、温かい心からの笑みというものを浮かべた。

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