楓雅の巻
暗闇の中で、彼は目を覚ました。温かい布団も彼には用意されているのに、好んで冷たい床の牢獄の中で眠っていた。足首が鎖で繋がれていて、自由に動くことも出来ない状態である。
彼の名前は川上楓雅。短く黒い黒い髪の毛は、彼の目も耳も隠して、外の世界との壁を作っているようであった。髪に隠れる瞳は黒く、何も映しはしない。絶望さえもう抱き飽きたとでもいうように、何を映すことも望まないのであった。
眠るときの彼は、一糸纏わぬ姿である。壊れた床が牙をむくが、細くて白い体には傷一つない。全くの陽の光さえ届かない、暗い地下牢の一室で、その場には相応しくないほどに美しい華を咲かせていた。
その華は、たった一つだけ望んでいた。人に愛でられるのも、称えられるのも嫌だった。ただ一つ望むのは、連鎖を止めて欲しいということだけ。華を散らせて欲しかったのだ。
「和輝様」
渇き切った心から溢れた声が、渇いた声として零れ落ちた。そして目を覚まして最初に漏らした声が、任務として捕らえただけである、そんな男の名であったことに驚愕した。自分自身を褒めてくれたのは初めてだったから、嬉しさを感じると共に彼は悲しくなってしまった。
変わっていくことを望んでいた自分に、嬉しさを感じると共に、大きな悲しみを抱いてしまっていた。