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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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姫の血

 逃げ出してから数日が経ち、やっと落ち着いてきたという頃、姿を見せないことを訝しみ咲希は尋ねた。

「一葉はどうしたのだろうか?」

 日良に迎え入れられて、雄大の城に戻ろうという発想に今まで至らなかったのだ。

 付き合いは長いけれど、この数日間、初めて日良と本心で語り合った気がしていた。

 いつだって客観的で、どこか遠くを見ているような日良が。感情さえないように思えた日良が。あの日良が泣いてくれた、語ってくれた、それが咲希には嬉しかった。

 彼女にとって日良は、もう疑う必要のない存在となったのだ。

 だからこそ、雄大の城へあえて帰ろうとは思わない。

 しかし一葉が傍にいないまま、日を過ごすというのは耐えられることではなかった。

 咲希から見た一葉というのは、あまりにも当たり前にあるものだった。

 勝手に場所を移動しようとも、着いて来てくれるものだと思っていたのだ。

「さあ、私は知りません。普通に考えたなら、まだ咲希様の行方を追っているのでしょうし、早くご無事を知らせてあげるべきなのでしょうけれど」

 気配でも察して、勝手に隣に出現するのが、一葉だと本気で思っていたのだ。

 それは、咲希の一葉に対する信頼でもあったのだろうか。

「いつまでも雄大のところでじっとしているような奴ではないだろうな。だが、考えもなしに動くような奴でもないし。とりあえず、そろそろ疲れも取れたし、雄大のところへ行ってくる。もう足だって痛くない」

 軽く準備運動をして確認すると、早速咲希は出発しようとしてしまう。

「お待ちなさい。攫われたことをお忘れですか? 外へ出るおつもりなのですか? 無防備にも限度というものがありましょうに」

 珍しく強い口調で、日良が咲希を止めた。

 言葉のほとんどが肯定から始まる日良にしては、嫌味さえ含まれるこの言葉はかなり珍しいことであった。

 最近は感情的になってしまっていて、まだそれが抜けていないということであろうか。

「でも、ずっと中に引き籠ってろって言うのは、とても私には向いていないな。最悪、護衛は付けても良いから、外へは出させて欲しい」

 自ら最前線へ突撃する姫というのは、やはりそこらの姫とは発想が違う。

 護衛は付けても良いだとは、斬新である。

「はぁ。咲希様が言うことを聞いてくれないことくらい、私だって十分に理解していますよ。護衛も出来るだけ少人数が良いと仰るのでしょう?」

 護衛に付けられるような人は、林太のところに送ってしまっているものだから、日良は更に頭を悩ませる。

 自軍が人材に恵まれていないことを、思い知っての溜め息でもあった。

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