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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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死神

 城下町までを含めて、走り回って情報を集めて、そうして漸く、深雪は和輝のことを発見した。どこかに囚われていると思い込んで、探してしまっていたことが、その固定観念が深雪の仕事を遅らせたのだろう。

 彼女は牢屋に囚われ続けていた。目を覚ましてから脱出するまで、一度だけ縄で引かれて林太の前まで連れていかれたが、それ以外はずっと牢屋の中だったのだ。相手は容赦のない極悪非道な林太なのだし、攫われた身なのだから、それが当然だと思ってしまった。

 確かに咲希のことは客室とも思われる、整った部屋の中から見つけ出し、救出をした。しかしそれは、林太にとって咲希が特別であることの表れでしかなく、自分が探しているのは和輝なのだと思うと、どうしても深雪は暗い場所を探したがった。

 彼女の思考が何度も辿り着き掛けていた、真っ暗な闇の中、……和輝はもう殺されてしまっているのではないかという、恐ろしい妄想。早く見つけ出したい、どうにか救い出したい、焦りつつも深雪はほとんど飲まず食わずで、睡眠すら取らずに丸三日程度探し続けた。

 そうしてやっと、やっと発見したのだ。

 海人、楓雅、それに林太までと一緒に、和やかに笑い合っている和輝の姿を。実際には和輝自身は何も変わっていないのだけれど、苦しめられている和輝を想像してしまっていたせいだろう。自分が知っている和輝よりも、むしろ明るく笑っているように見えて、深雪は胸が苦しくて堪らなくなった。本当は、和輝はここにいたいのではないか、そうとすら思ってしまった。

「はは、あはは……」

 咲希や和輝への待遇と、自分への待遇を比べて、深雪は笑みが零れてきた。特別なのは咲希なのだと思っていたけれど、そうではなくて、深雪こそが特別だったのだ。警戒されていたからこそ、厳重にも牢屋に入れられていたのだ。忍びとしての腕前を称えられているようで、喜びの笑みが零れていた。ひどく、渇いた笑みが。

 同時に、心配し続けていた自分が馬鹿らしく思えた。だって林太に舐られでもしていたらと、可憐な咲希のままであってくれるようにと、間に合えと願い探し出した咲希は、すっかり楽しんで布団で眠ろうとしているところだった。深雪は手足が拘束されたまま、硬い床に横たえられて時間を過ごしてきたのに。どうにか脱出するのも命懸けだったし、それからも一瞬も気を緩めず、眠ることなど出来ずにいるというのに。

 和輝のことは、殺されているのではないかと案じ、もしその最悪の事態が起こっていたのなら、責任を取って自分も死のうとまで覚悟を決めていた。とはいえ彼女は武士ではなくて忍びだし、男ではなくて女。切腹などするようなものではなくて、卑怯であろうと許されるような立ち位置にある。だからこそ彼女は、少しでも咲希の為に働いて、無様に散ろうと考えていた。

 なのに、それなのに、当の和輝は、あろうことか林太と楽しそうに笑い合っているのである。ご機嫌取りをしているだとか、情報を引き出そうとしているだとか、そういったことも、ほんの少しだって感じられない。彼はただ楽しんでいるだけで、何も不安になど思っていないのだ。

 心配で心配で堪らなかったというのに、和輝からしてみれば、深雪のことなど頭の片隅にもないかのように思えた。もしかしたら、咲希のことも……、そう思えてならなかった。

「深雪への罰ってことかな。今回のこと、そこまで全部、深雪のせいだったのかな?」

 小さく呟いた深雪の頬には、スーッと一筋、哀しい線が引かれていた。彼女は決して、死神なんかではなかったのだ。

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