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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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穏やかに

 咲希が逃げてから、五時間程度経過した頃。食事を届けに行ったときに、彼女がいないということがバレた。そしてその情報は、すぐに林太へと伝えられる。

「えっ、全く気が付きませんでした。ごめんなさい。きっと、咲希様がお逃げになったということは、深雪様が先に脱出なさったということです。和輝様だけでも、まだいるようならここにお連れして下さい」

 林太に言われて初めてそれを知った楓雅は、驚きとショックで目を見開き、やがていつもの無表情で言った。それを聞いて林太は楓雅の言葉通り命令すると、細身な楓雅を抱き上げて、ペットのように自分の膝の上に乗せた。

「死神を捕らえよなんて、無理難題を達成しただけでも十分だ。たった一瞬でも、わしのものになった、そのことが嬉しかった。それに、必ずあの男を取りに戻って来るだろうから、わしはそれで十分だよ」

 驚くほど優しい言い方だった。林太が楓雅にだけ見せる、穏やかで優しい表情をしていた。そのままでいると、余程楓雅は不安になっていて、疲れていたのだろう、そして余程安心したのだろう。気を失ったように、寝息も立てずに林太の上で眠り出した。

 その姿は美しく、温もりも弱く動きもしないため、とても生きているとは思えなかった。まるで死んでいるかのよう、それどころか、最初から生きてもいない、人形かのようであった。けれど彼の浮かべている表情は、決して人形で作れはしないであろうほどに、幸せに満ち溢れていた。

「やっほー。和輝君あるところに海人あり。って、なんと破廉恥な、同人誌にありがちな体勢っ!」

 そこに登場したのは、賢い馬鹿。和輝を呼んだだけだったのだけれど、和輝君が行くなら僕も、そう言い出して海人も着いて来たのであった。失礼というレベルじゃない彼の発言は今更なので、溜め息で林太は流してくれる。

「その体位は、男が相手のときは無理だって聞いたけど……。てか、そんな美人がいるくせして、僕を口説いてたっていうの?」

「海人、こっちもやる? ってなんでヤル気なの、冗談、冗談だから!」

 危機感を少しも感じていないのか、和輝も海人もわちゃわちゃ騒いでいた。穏やかに眠る楓雅と、楽しそうにはしゃぐ二人の姿を見て、つい林太も笑みを漏らしてしまっていた。

「お前ら、敵国に捕まっているの、忘れているんじゃないか?」極悪な顔でそんなことまで言って。

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