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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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城に一人

 梓の報告によれば、どうやら海人は上手く行っているようですね。

 楓雅様のいらっしゃる地とのこともあり、また林太様ご自身がかなり用心深い方とのことでしたので、入ることさえかなり難しいとのことなのです。ですから、梓の報告が、必ずしも正確とは限りませんが。

 どうやら海人は正面から行き、彼の巧みな話術もあってか、忍び込むのではなく客人として通されることに成功したようです。

 ただし内密に着いていかせている以上、梓は一緒に通してもらうことができません。

 私のところにも、楓雅様や深雪様のように、他国からも評されるほどに優秀な人がいれば良いのに……なんて。私にとって梓は、家族のような存在ですもの、代わりなんていませんのですけれど、思わずにはいられません。

 咲希様のように戦う勇気も、林太様のように振る舞う勇気もない。咲希様のように軍を率いる能力も、林太様のように政治を行う能力もない。

 そんな私だからこそかもしれませんね。


 少し気を抜くと、どうしても何もかもを悪い方へと考えてしまって、自己嫌悪へと陥ってしまっていけません。

 隣に野乃花がいて下さったならば、それに気が付いて、優しく私を元気付けてくれたでしょうに。

 自分で野乃花を危険な敵地へと送っておいて、今更にこんなにも会いたいだなんておかしいですね。でも、どうなのでしょう。

 本当に私が会いたいのが、野乃花なのかと問われたなら、それはそれで怪しいものなのです。


 私は寂しいだけなのでしょうか。


 もし私の気持ちの原点が、全て寂しさからなるものなのだとしたら、私というのは相当に悲しい存在なようですね。

 何度も咲希様に捨てられて、尽くしても尽くしても信じて頂けなくて、その時点で気付かない私ではありませんが、再認識させられます。

 私を大切にしてくれる人とはだれなのかと、その答えは野乃花しかなくて。なのに私が大切な人と訊かれたときに、初めに出てくる名前は野乃花でないのが申しわけなくて。

 けれど求められているのが私だと思われるその状況ですら、孤独に面しているのは私だというのですから、ひどく残酷なものですよ。


 ものの落ちる音、私の手にいつの間にか握られていた、一枚の紙。

 どうやら、梓が新たな情報を持ち帰って下さったようですね。梓がというか、実際に届けているのは、彼女本人ではなくて彼女の飼っている鳩なのですが。

 そういえば、動物においてだけを見れば、他のだれよりも梓が優れていると言えるでしょうね。

 あまりに範囲が狭いために、何も使えない能力であるようにも思えてならないものですが。

 とにかくそのようなことよりも、海人と野乃花がどうあるかを知るのが今は最も大切なことですから、紙を開いて内容に目を通す。


 咲希様がどこにもいない、逃げた可能性がある、ですって?

 どうもそんなはずはないと思うのですが、これが正確な情報なのだというのですから、恐ろしいものです。

 楓雅と思われる男は、慌てているように見えた。と書かれているのですが、本当にそうなのでしょうね。

 かの楓雅様ともあろう人が、梓にそんな情報を盗み取られ、動揺さえ感じ取られてしまうようですから、間違えありません。

 そのようなことが可能だとしたら、それは深雪様ただ一人でしょう。


 結局、咲希様を救い出したのは、彼女に仕える優秀な忍び、深雪様だったということですか。

 せめて私が派遣しただれかが活躍して下さったなら、少しは私の手柄だって、得られたかもしれませんのに。少しくらいは、感謝して頂けたかもしれませんのに。

 咲希様がご無事なら、それだけで十分なはずですのに、そのように思ってしまいます。

「私を一人にしないで下さいよ」

 寂しさが積もってのことか、言葉を漏らしてしまうけれど、それに返す人もいないのは、更なる寂しさを呼ぶばかりでした。

 今回は、咲希様が私のことをどう思っているか、そして反対に私が咲希様のことをどう思っているか。また、私にとって野乃花がどれほどまでに重要な存在なのかを、意識することのできる良い機会だったと言えるかもしれません。

 そう思ったなら、強ち悪くもなかったのでしょうか。私が一人、城で危険も負わずに待っていること。

 私は、許されるのでしょうか。

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