焦り
普段の様子からしたら、忘れがちではあるけれど、深雪は忍びである。それも、超がつくほどに、優秀な忍びだ。少しの手掛かりもない状態から、咲希を救出したように、城に忍び込んでそこから一人二人連れ出すくらいは、彼女に掛かれば余裕なのである。
そのはずなのに、そんな彼女が、困っていた。どこを探しても、和輝が見つからないのだ。
城内にいるのだという情報を、なんとか得はしたものの、それ以上の情報を全く得られなかった。深雪ともなれば、どのようなことも容易くやってのけるので、何も掴めないというのは初めての経験である。焦りというものも、生まれ始めていた。
何においても、楓雅は人並み外れた才能を発揮する。まさに天才というべき人物であったが、忍術においてだけを言えば、エキスパートである深雪の方が明らかに上である。比べるまでもなく、実力に大きな差があるのだ。
しかしどこを探しても、和輝に関する情報を得られないし、彼の居場所などわからない。何が起こっているのかと、深雪は首を傾げる。かっこつけたからには、和輝を連れて出なければ帰れないし、何より和輝を置いてなど行けない。
失態を見せた悔しさもあってか、深雪には火が点いてしまっていて、完全に本気になっているのであった。それでも変わらない状況に、彼女の中の焦りは、本人の知らないうちにどんどん大きくなっていく。
忍者って悪戯し放題じゃん! そんなふざけた理由で、忍者ごっこをしていたことが、彼女が忍者になったきっかけである。その後も楽しんでいるという様子が目立ち、プレッシャーなど少しも感じないようではあったけれど、そんなわけがなかったのだ。
天才と称される度に、難しい任務に成功する度に、彼女は秘かに追い込まれて行っていた。今までに蓄積されていた、期待に応えなくちゃいけないという感覚が、自分は天才でいなければならないという圧力が、重荷となって、焦る彼女に圧し掛かる。どのようなことも軽々達してしまうので、彼女が壁に当たることを、待ち積み重なり続けていたようであった。




