林太の巻
陽の光を浴びて、彼は目を覚ました。柔らかな布団も枕も、自分の体に合うように作られている。起き上がると豪華な机や椅子が目に入る。どこもかしこも華やかに彩られているが、眩しくはないように多少の静けさはある。まさに彼の為だけに作られた、豪華で美しい部屋である。
彼の名前は小森林太。黒髪は寝起きである為に少し乱れ気味であり、肩まで垂れるが跳ねた毛は首元を擽る。元々細い眼は、寝起きでまだ眠いからかほぼ開いていない。その黒い瞳には、映すものなどないようであった。
部屋と同じく華やかでいて静かな美しさを携えて、着心地も最高である高質な服を彼は身に纏っている。それはとても彼の太った体に合っているとは言えないが、どこかで高貴さと不安を語っているようで、彼らしさもあるようであった。
今回も楓雅はきちんと命令を達成してきた。少し時間が掛かっていた為に不安を抱いていたのだが、やっと目的を果たしたと聞き、彼は驚くほどに上機嫌であった。
「三村和輝、か」
あまりに興味があったから、彼は部屋で一人その名前を呼んでしまっていた。そして以前より欲していた咲希や死神と呼ばれるほどの忍びではなく、一緒に捕らえてきたなんでもない男の名を呼んでいることに驚愕した。珍しく楓雅が褒めるほどの男がどんなものなのか、彼の興味は止まらなかった。
変わってこれている自分にも、彼は喜びを抱いていた。