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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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お互いを

 楓雅の目を盗んで、咲希と深雪は脱出に成功した。それから深雪は、次は和輝を救出しようと、再び城に忍び込もうとする。

「待て。お前、一人で行く気か?」

 城下町さえも陰を駆け抜けて、誰にも見られないように、城から遠くまで連れて来た意味を知り、咲希は深雪を止める。かなりの距離を取ったのは、咲希が一人でも逃げ帰れるように。楓雅に発見されるのを、少しでも遅れさせるように。自分が守れないことを、知った上での行為だったのだ。

 深雪に送り届けて貰ってから、またもう一度、林太の城にまで行かせようとは思っていなかった。それではさすがに時間も掛かってしまうし、深雪だって大変だろうと思ったから。けれども一人で逃げ帰るということを、咲希は躊躇わずにいられなかった。

「仕方ないっしょ。それに、咲希と一緒にいたら、存分に暴れられなくて、逆に困るんだよね。一人じゃないと、深雪は死神になり切れないから」

 引き留めた咲希が何を思ったか、わからない深雪ではないから、わざと冷たくそう言った。困ったような微笑みを浮かべて、その後にいつもの笑顔を浮かべて、咲希の背中を力強く押した。絶対に和輝を助けて、自分も生きて帰るから、咲希も絶対に生きて帰って、”おかえり”と言ってくれ。言葉にしなくても、深雪のそんな言葉が、テレパシーのように流れてくるのを感じて、咲希は笑顔を浮かべる。

 本当は不安だってない訳じゃない。けれど深雪のことを信じているし、彼女を不安させたくないと思ったから、とびっきりの笑顔を浮かべてみせた。元気な深雪の笑顔に応える、同じくらい元気な咲希らしい笑顔を深雪に向けて、今度は咲希が深雪の背中を押す。

「あんまり殺してやるなよ? 豚によって虐げられた、可哀想な良民たちだ」

「わーってる。殺すのは最低限にするよう、頑張ってみるから、安心してくれて大丈夫」

 最後に二人抱き締め合うと、反対の方向へと歩き出す。お互いに笑顔を向け合っていたけれど、振り返らないその表情からは、どちらも完全に笑顔など消えていた。大切な人を悲しませないために、生きなければいけなかったから……。

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