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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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本気で豚

 一葉と雄大が訪れたのは、玲奈の城であった。

 今度は何かと苛立ちながらも、追い返す理由もなく、話を聞くだけ聞こうと、玲奈は二人を案内させる。これは咲希による嫌がらせなのではないかと、消え去った二人のことも含めて思っていたが、それを言う気力もなく不機嫌顔だった。

 それは彼女の中に、咲希を信じる気持ちがあったからかもしれない。ライバルのような存在ではあるけれど、腹立たしくて気に入らないけれど、咲希は無意味な挑発を、ましてや本気で傷付くようなことをする人じゃない。そんなにも悪い性格をしていないと、知っているからかもしれない。

「どうしたの? 一葉とか、言ったかしら、咲希のところの人よね。それに裏切り者の雄大まで」

 玲奈の口の悪いのは、特別珍しいことじゃないけれど、今日は格別不機嫌な表情なので、普段から玲奈のことを見ている人も驚きを隠せずにいた。これ以上玲奈を不機嫌にしてはいけないと、勝手に一葉と雄大のことを、追い返そうとしたくらいである。

「お願いします。ご協力頂けないでしょうか。姫様が林太殿に攫われたのです。もしかしたら、和輝殿と深雪殿も、そうではないかと思うのですが、玲奈殿のところにまだおりますか?」

 案内されて玲奈の前へ行くと、何も気にならない様子で頭を下げ、挨拶をしたり名乗ったりということも忘れ、頼み込んだのであった。礼儀正しい一葉からは、信じられないような行為である。

 咲希と会うときには、必ず隣に一葉がいたので、彼女のことを玲奈は知っている。自信はなかった様子だが、他人に少しの興味も示さない玲奈が、名前まで覚えていたくらいのものだ。そして一葉の人柄を知っているだけに、無礼と感じるのではなく、大変な状況であるということを感じ取ったのだ。

「逃げたのかと思ったのだけど、そうじゃなくて、林太に攫われたってことなの? なんなのよあいつ、ほんと豚! 本気で豚!」

 自分のところにいるのが嫌だったわけじゃない。咲希が家来の手を煩わせてまで、嫌がらせをしてきたわけでもない。信じていたものが正しかったことを知り、急激に上機嫌になった玲奈は、真犯人たる林太の悪口を叫ぶ。太っているのは関係ないのだから、それはただの悪口だと思うのだが、咲希に至ってはそれを呼び名にしているくらいなので、一葉も苦笑するしかない。

 林太が太っていることは、周知の事実なのだから今更取り上げる必要もなく、今するべきなのはそんな話ではない。一通り玲奈の豚という叫び声を聞き終えると、話を戻して、要求を告げる。咲希を救い出すためだけに組まれる、同盟の交渉が始まるのであった。

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