?優遇?
今日はもう疲れただろうから、風呂に入って眠ると良い。部屋も用意したから、案内させる。
舞いが終わると、次は何をやらされるのかと咲希は身構えたが、思いがけず林太はそう言ったのだった。しかしまだ彼を信用することなど出来ず、何か裏があるのかもしれないと疑った。もしかしたら、部屋で屈辱的な要求をされるのかもしれない、そう思って咲希は警戒を解かなかった。
それに反し、林太は咲希とは反対方向へと歩き出す。案内の女人に咲希が続くけれど、林太は着いて来すらしないのだ。咲希は素直に、噂通りの醜い林太を信じている。だから彼の喜びと優しさからなる微笑みを、下卑た気味の悪い笑みとしか捉えられない。林太自身がそうさせているところもあるが、咲希はあまりに素直だった。
促されて、咲希は風呂に入る。そこは彼女が普段使っている場所とは、何もかもが違うのであった。広さも種類も石鹸もタオルも、そして嗅いだこともないような華やかな香りがする。林太に捕まっているということも忘れて、咲希はその全てを堪能してしまう。
のぼせ気味になった頃、やっと風呂を出ると、そこにはふわふわのタオルと寝巻が用意されていた。その着心地の良さに、咲希の警戒はすっかり解けていた。何度も拒まれたため、林太が与えることを諦めた食事も、今の咲希ならば食べてしまうことだろう。
未だ、林太に対する警戒心がなくなったわけではない。毒が入れられているかもしれないと、食事を拒んだ。裸では身を守れないと、入浴を少し躊躇った。そんな彼女だが、林太の用意した最高峰のサービスに、彼は自分を殺すつもりはないのだと、やっと気が付き始めているのであった。
「咲希、何もされてない? ジュッキーは無事?」
気持ちの良い布団に寝そべって、うとうととしていると、どこかから深雪の声が聞こえてくる。意識を手放し掛けていたところなので、夢かと思っていたが、彼女の心配そうな声は、どうやらそうでないらしいことを伝える。
「どうする? 逃げる? ジュッキーを人質に取られる、って可能性もあるけど」
「逃げられるうちに逃げておこう。そして、和輝は和輝で、隙を狙って救い出せば良い。お前にはそれくらいのこと、出来るだろう?」
相手には楓雅がいるのだから、そう容易く行くとは、咲希も深雪も思っていない。しかし深雪には、咲希が失敗を取り返すチャンスを与えてくれているのだということがわかった。だから彼女は悪戯っ子の、不敵な笑みを浮かべて返す。
「まあね、それくらい余裕だっての」




